貝合(読み)かいあわせ

精選版 日本国語大辞典 「貝合」の意味・読み・例文・類語

かい‐あわせかひあはせ【貝合】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 平安時代の物合わせの一つ。左右に分かれて珍しい貝を出して合わせ、その優劣を競う遊び。
    1. [初出の実例]「浦々にいでて貝を拾ひつつ、もて参り集まるを、御前には、世に知らずをかしきものに選り遊ばせ給ふを、おなじくはかひあはせをして、珍らしからむ一つにても、持て参りたらむを勝つにせむなどいひて」(出典:長久元年庚申良子内親王貝合(1040))
  3. 平安末期から行なわれた遊び。三六〇個のハマグリを数人に分配し、各自がその貝殻を左貝、右貝の両片に分けたうえ、右貝を地貝(じがい)としてすべて出して並べる。その中央を空所にしておき、それぞれの持った左貝を出貝(だしがい)としてその空所に順次出し、対(つい)になった両片を数多く選び合わせたものを勝ちとする。後世、合わせやすいように貝の内側に左右同じ趣向の絵、または和歌上の句下の句を分けて書いたりした。貝おい。貝おおい。
    1. 貝合わせ<b>②</b>〈宮川一笑画〉
      貝合わせ〈宮川一笑画〉
    2. [初出の実例]「来十三日中宮御方可貝合之事」(出典:袋草紙(1157‐59頃)上)
  4. 貝殻の両片をぴったりと閉じ合わせること。
    1. [初出の実例]「蛤も蛤口をくと破戒無慚(はかいむざん)。飛ついてかちかちかち。つつく所を貝合にしっかと喰(くひ)しめいごかせず」(出典:浄瑠璃・国性爺合戦(1715)二)
  5. 女性同士の同性愛をいう隠語
    1. [初出の実例]「慰といへど貞女の貝あはせ」(出典:雑俳・あづまからげ(1755))

貝合の語誌

は平安時代に遊戯として行なわれていたが、「源氏物語」や「枕草子」にはその記述がない。一方と同じ「かひおほひ」は平安時代末期以降盛んになるが、と混同されることもあった。平安時代末期頃まではこの二種の遊びが併行していたらしい。しかし、鎌倉時代以降は貝を飾った州浜に風流を凝らし、そこに和歌を詠み添えることの多い「かひあはせ」は滅び、もっぱら貝の組み合わせを競う「かひおほひ」が盛行した。

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改訂新版 世界大百科事典 「貝合」の意味・わかりやすい解説

貝合 (かいあわせ)

物合(ものあわせ)の一つ。左右二方に分かれ,同じ種類の貝を出して比べ,その優劣を競う遊戯。貝の形や色の美しさ,大きさ,珍しさ,種類の豊富さなどが勝敗判定規準になった。もっぱら平安時代に行われ,風流善美を尽くした洲浜(すはま)の台を作って飾ったり,貝に歌を詠みそえたりした。資料としては1040年(長久1)5月6日に貝の豊富な伊勢で行われた斎宮良子内親王(後朱雀院第1皇女)の貝合が最も古く,《類聚歌合》に収められている。この貝合では16品種ほどの貝の名がみられる。《堤中納言物語》の〈貝合〉は,蔵人の少将が母のない姫君に同情して,すばらしい貝をこっそり贈る話である。やがて本来の貝合が平安末期か鎌倉初期ごろからしだいにすたれ,貝合と貝覆(かいおおい)とが混用され,後世では貝覆を貝合とも呼ぶようになった。
貝覆
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「貝合」の意味・わかりやすい解説

貝合
かいあわせ

物合の一種。左右に分かれて、持ち寄った珍しい貝を比べ、形状・色彩などの優劣を競う遊戯。平安時代の貴族社会に行われた。二十巻本『類聚(るいじゅう)歌合』にみえる長久(ちょうきゅう)元年(1040)の斎宮(いつきのみや)良子内親王の貝合は、伊勢(いせ)(三重県)で行われたものであるが、貝合の具体的なようすをうかがわせる最古史料である。それによると、貝にはそれにちなんだ和歌が詠み添えられ、海浜の風景などを貝をちりばめてつくりなした洲浜(すはま)をしつらえるなど風流な遊戯であった。また『山槐記(さんかいき)』応保(おうほう)2年(1162)の条には、諸社への奉幣や誦経(ずきょう)を行う盛大な例もみえる。のちに本来の貝合が衰微すると、貝覆(かいおおい)との区別が不明確となり、貝覆を貝合とよぶようになった。

[杉本一樹]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「貝合」の解説

貝合
かいあわせ

平安時代の物合(ものあわせ)の一つ。左右にわかれ,あらかじめ準備した同じ種類の貝を出しあい,優劣を競う遊戯。1040年(長久元)の「斎宮良子内親王貝合」は,貝の豊富な伊勢の地で催され,海辺を模した洲浜(すはま)台が作られ,和歌が添えられた。「堤中納言物語」の「貝あはせ」は,貝合を目前にした貝の収集のようすを描く。このような本来の貝合は平安末期からしだいにすたれ,貝覆(かいおおい)と混用されていった。貝覆は180対あるいは360対の蛤(はまぐり)の貝殻を左右両片にわけ,一方を並べて他方にあうものを探す遊び。やがて貝殻の内側に絵を描き,貝を入れる貝桶(かいおけ)も蒔絵(まきえ)など豪華なものが作られるようになり,婚礼調度の一つとなった。

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百科事典マイペディア 「貝合」の意味・わかりやすい解説

貝合【かいあわせ】

平安時代,おもに貴族社会で行われた室内遊戯。左右に分かれ,貝殻を持ち寄り,同じ種類の貝を出して比べ優劣を競う。その貝にちなんだ和歌を詠みそえたり,洲浜台を作って飾ったりした。物合の一種。→貝覆(かいおおい)/歌貝
→関連項目花合

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「貝合」の意味・わかりやすい解説

貝合
かいあわせ

歌合 (うたあわせ) の1種。左右2組に分れていろいろな貝を出し合いそれに添えて和歌を出し,その優劣を競った。判者が1人いて判定を下す。平安時代の貴族の間に流行し,のちに貝覆 (かいおおい) のこともいうようになった。

貝合
かいあわせ

子供の遊び。あらかじめ,ハマグリなどの二枚貝を前後に離し,2手に分れ,一方の出した貝の片身を他方が出し,うまく合えば後手の勝というようにして,勝数を競った。貝の殻はちょうつがいのところに個々の特徴があって,同一のものでなければ合わないため,勝敗ははっきりしていた。

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世界大百科事典(旧版)内の貝合の言及

【貝】より

…日本ではこのハマグリが平安朝以後,江戸時代まで上流子女の遊戯に使われたことは世界的に早くから有名であった。この貝覆(かいおおい)(貝合)にはハマグリの殻を右殻と左殻に分け,殻の内面に通常金泥を塗り,その上に人物や花鳥などが描かれているものが使われた。一方を地貝として伏せて並べ,他方の貝を出貝としそれに合う殻を地貝の中からさがす遊戯であるが,その入れ物の貝櫃(かいびつ)は贅(ぜい)を尽くし,豪華な嫁入道具となった。…

※「貝合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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