物言えば唇寒し(読み)ものいえばくちびるさむし

故事成語を知る辞典 「物言えば唇寒し」の解説

物言えば唇寒し

悪口を言ったり、自慢をしたりしたあとは、寂しい気持ちになるということ。転じて、よけいなことを言うと災いを招くという戒め。

[使用例] 泣くと地頭には勝つべからざる事を教えられたる人間たり。物いえば唇寒きを知る国民たり[永井荷風*江戸芸術論|1920]

[使用例] そういうふうに意味をストレートにとられてしまうところに座談のむずかしさがあるのだが、近ごろはぼくもなるべく安全圏を保っている。「もの言えば唇寒し」である[手塚治虫*ぼくはマンガ家|1969]

[由来] 「芭蕉庵小文庫―秋」が伝える、松尾芭蕉の句から。この書物では、まず、中国のかん王朝の時代の学者、さいえんの「座右の銘」から、「人の短をいふ事なかれ 己が長をとく事なかれ(他人の短所を指摘しない、自分の長所を自慢しない)」という一節が引用されたあと、「物いへば唇寒しあきの風」という芭蕉の句が掲げられています。

[解説] ❶崔瑗の「座右の銘」は、いわゆる「座右の銘本家。平安時代以降、日本でもよく読まれた名文集「文選」にも収録されていて、有名です。芭蕉はそれを踏まえた上で、悪口や自慢話につきまとう後味の悪さを、「唇寒し」と表現したのでしょう。ものさびしく吹く秋の風は、自己嫌悪心象風景ともなっています。❷つまり、本来は「謙遜の気持ちを忘れないように」という戒めのことば。それが、「災いを招かないように」という意味に転じたのは、「唇亡びて歯寒し影響だと思われます。これは、助け合う片方が滅びると、もう片方にも災いが及ぶことを意味する、故事成語です。

〔異形〕唇寒し。

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ことわざを知る辞典 「物言えば唇寒し」の解説

物言えば唇寒し

思ったことをそのまま口にすると、わが身に災いがふりかかりかねない。はっきり物をいうと災いを招くおそれがある。

[使用例] 組織として、集団としての秩序を重んじるあまり、協調性を要求するのであろうが、それでは、従業員全員に「もの言えば唇寒し秋の風」といった気持ちを植えつけてしまう[盛田昭夫学歴無用論|1966]

[解説] 芭蕉の俳句物言へば唇寒し秋の風」に由来します。芭蕉は「座右の銘」と題し、前書を添え、この句をしばしば門人に書き与えたといいます。後に「秋の風」が省かれ、ことわざらしい形式になって人口にかいしゃしました。

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