特別支援教育(読み)トクベツシエンキョウイク(その他表記)special needs education

デジタル大辞泉 「特別支援教育」の意味・読み・例文・類語

とくべつしえん‐きょういく〔トクベツシヱンケウイク〕【特別支援教育】

障害をもつ幼児・児童・生徒の自立と社会参加を支援するための教育。→特別支援学校特別支援学級
[補説]学校教育法の一部改正により平成19年(2007)4月より実施。障害の範囲が従来特殊教育より広げられ、学習障害LD)・注意欠陥多動性障害ADHD)・高機能自閉症なども支援の対象となった。

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最新 心理学事典 「特別支援教育」の解説

とくべつしえんきょういく
特別支援教育
special needs education

教育において特別な支援を必要とする子どもが将来的に自立し,社会参加を図ることができるように,一人ひとりの生活上および学習上の困難に応じて行なわれる教育をいう。

【特別支援教育への転換】 第2次世界大戦後,日本では視覚障害聴覚障害知的障害,肢体不自由,病虚弱の障害カテゴリーに含まれる子どもに,障害の種類と程度によって盲学校聾学校養護学校および特殊学級などの特別な場で特別な教育を提供してきた。しかし,障害カテゴリーに含まれていなかったLD(学習障害)やADHD(注意欠陥・多動性障害),アスペルガー障害などの発達障害developmental disabilityのある子どもは,養護学校や特殊学級に受け入れられず,特別な教育的配慮を受けることなく通常学級に在籍するケースが多かった。1993年に通級による指導が開始され,通常学級に通っている言語障害情緒障害などのある子どもに対して特別な支援が行なわれるようになったが,通級による指導を行なう学級がすべての通常学校内にあるわけではなく,十分な対応を受けることができない子どもが数多くいた。

 一方で,盲・聾・養護学校に通っている子どもの障害が重度,重複化する傾向が強まり,各学校において子どもの特性やニーズに応じて,これまでよりもさらにきめ細かで柔軟な対応が求められるようになった。また,盲・聾・養護学校の数が少ないため,自宅からの通学が不便である子どもが多く存在した。そのため,なるべく自宅から近く,通学の負担が少ない学校での教育が提供されることが望まれるようになった。

 こうした流れを受けて,2006年に学校教育法が改正され,従来の障害カテゴリーに含まれる子どもだけではなく,発達障害のある子どもを含む特別な教育的支援を必要とする子どもに対して,教育を受けるすべての場において一人ひとりのニーズに応じた教育への転換が図られることになった。

 特別支援教育への転換を図るために,大きく二つの改革が行なわれた。第1は,盲・聾・養護学校から特別支援学校special needs schoolへの変更である。2007年度より複数の障害に対応することができる特別支援学校に変更することになった。また,特別支援学校には障害のある子どもの指導に関して専門的知識のある人材や技術,教材・教具が備わっていることから,地域の通常学校におけるセンター的な役割を果たすことが定められた。

 第2は通常学校における特別支援教育の推進体制の整備である。通常学校に在籍する特別な支援を必要とする子どもにも適切な対応が必要とされることから,通常学校の教員一人ひとりが特別な支援を必要とする児童生徒に対して指導上の専門性を高め,学校内での支援体制を構築すること,学校外の専門家などの人材を学校で有効に活用すること,関係機関との有機的な連携協力体制を構築することの必要性が示された。

 また,学校内で特別支援教育を計画的に進め,支援体制を充実させることが求められ,中核的な組織としての校内委員会が設置された。校内委員会では,①特別な支援を必要とする児童生徒の学習面や行動面,健康面,交友関係などの実態把握,②在籍学級での指導と特別支援学級での指導の役割分担の明確化,③個別指導計画の作成および評価,④保護者や地域の理解の促進,⑤地域の教育資源(リソース)の活用を行なっている。さらに,特別支援教育のキーパーソンとなる特別支援コーディネーターspecial support educational coordinatorを各学校の教員の中から指名することが定められた。特別支援コーディネーターは,主に①担任の支援,②校内委員会のための情報収集,③校内研修の企画,④関係機関の情報収集および連携,⑤巡回相談や専門家チームとの連携,⑥保護者の相談窓口の役割を担っている。

【個別の教育支援計画】 特別な支援を必要とする子どもに計画的かつ継続的な対応をするために,個別の教育支援計画が策定されている。教育支援計画education support planとは,一人ひとりの子どもの教育的ニーズを把握し,それに応じた適切な教育を行なうために作成するものである。これによって,子どもの問題を整理し,具体的な目標や指導方法を明らかにできること,一貫した指導をすることができることなどのメリットがある。また,教育支援計画を作成する際に,関係者の間で子どもの状況に関する共通した理解が図れるため,その後,それぞれがどのような役割を果たす必要があるのかについて考えやすくなる。

 教育支援計画は,①子どもの実態把握,目標の設定,指導方法を検討する,②作成された計画に沿って指導をする,③指導した結果を見直し,修正する,という手順で作成される。目標に関しては,保護者のニーズを十分に考慮しながら,長期目標と短期目標を設定する。長期目標は,おおむね1年で達成可能なレベルの目標にする。また,短期目標は長期目標を細分化した目標である。学校の実情に応じて,学期ごとあるいは半年程度で達成できる目標にする。指導方法については,子どもの認知特性や興味などに応じて工夫する。

【特別支援教育の対象の拡大】 従来は,視覚障害,聴覚障害,知的障害,肢体不自由,病虚弱,言語障害,情緒障害の七つの障害のある子どもを障害児教育の対象にしてきた。特別支援教育では,上記の七つの障害種に加えて,LD,ADHD,自閉症,アスペルガー障害といった発達障害のある子どもが含まれるようになった。

 LD(学習障害learning disabilities)とは,全体的には知的発達に遅れはないものの,基本的な学習領域である「聞く,話す,読む,書く,計算する,推論する」の中で,一つあるいはいくつかの能力に著しい落ち込みが見られることをいう。

 ADHD(注意欠陥多動性障害attention deficit hyperactivity disorder)とは,不注意(注意をコントロールすることができない),多動性(じっとしていられない),衝動性(思いついたら考える前に行動する)のいずれか,あるいはそのうちの複数の特徴のある状態をいう。

 自閉症autismとは,①対人関係をもつことに質的な障害があること,②ことばやコミュニケーションにおいて質的な障害があること,③活動範囲と興味の対象が限定されていることの三つの特徴があることをいう。

 アスペルガー障害Asperger's disorderとは,自閉症の三つの特徴があるが,知的な遅れを伴わない場合をいう。自閉症とアスペルガー障害は広汎性発達障害pervasive developmental disorders(PDD)の下位概念である。

 発達障害はそれぞれ独立した障害ではなく,一人の子どもに複数の障害が見られることがよくある。また,同じ障害であっても,特性の現われ方は個々によって大きく異なる。発達障害のある子どもに対しては,一人ひとりの特性をよく把握し,その子どもに合ったサポートの仕方や環境を作ることが必要になる。

【障害理解教育education of understanding special needs】 障害者の社会参加を阻む要因の一つに,障害者に対する一般の人びとの偏見や特別視がある。これらを解消することを目的とした教育を障害理解教育という。障害理解教育とは,「障害のある人にかかわるすべての事象を内容としている人権思想,とくにノーマライゼイションの思想を基軸に据えた教育であり,障害に関する科学的認識の形成をめざしたもの」と定義されている(徳田克己,2005)。障害理解教育では,「障害者に対して思いやりの気持ちをもちましょう」などと具体性のないスローガンを掲げることは避けなくてはならない。また,障害のある人と時間と場所を共有すれば障害理解が進むと考えることも誤りである。学習者が障害に関して適切な知識をもち,適正な認識を形成できるように,年齢や理解力に応じたプログラムを作成し,系統的に指導していくことが重要である。 →学習障害 →広汎性発達障害 →知的障害
〔水野 智美・徳田 克己〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「特別支援教育」の意味・わかりやすい解説

特別支援教育
とくべつしえんきょういく

障害をもつ子供を対象とする教育支援。2006年(平成18)6月に学校教育法の一部改正がなされ、07年4月から特別支援教育が実施されることになった。これまで心身に障害をもった子供の教育は盲(もう)学校、聾(ろう)学校、養護学校などの特殊学校、あるいは小中学校に設置された特殊学級で展開されてきた。しかし、弱視や難聴、知的障害など、特殊学校に入学するほどではないが、普通学級では不適応を起こす中間領域の子供や、学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)など、新しいタイプの問題を抱える子供が増加している。そして、文部科学省が2002年に実施した調査においても、普通学級において特別な支援を必要とする児童生徒は約6.3%いると見込まれている。

 そのため、従来の特殊教育の場に限定せずに対象を広げ、総合的な特別支援体制を整えることになった。とくに各学校では、校長が特別支援教育コーディネーターを指名し、コーディネーターが中核となって、支援の必要な児童生徒に校内で連携して対応することになった。また医療や保健、福祉等の学校外の機関とも協力して障害に配慮した教育を行えるようにした。

 しかし特別支援教育はまだ多くの課題がある。まず、コーディネーターに高度な専門的な知識や判断力が求められるが、そうした人材の養成が遅れている。また、特別支援を具体化するのに教員の増員や予算の増加が必要であるが、人や財源の支援がなされていない。さらに、普通学級での対応に見通しが立つ反面、これまでの盲・聾・養護学校といった特殊学校が、設置者の判断により複数の障害種に対応可能な特別支援学校と変わったこともあり、固有の指導がおろそかになる懸念も生まれている。

[深谷昌志]

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知恵蔵 「特別支援教育」の解説

特別支援教育

障害のある児童生徒に対して、その1人1人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善・克服できるよう、必要な支援を行う教育。従来の特殊教育(障害児教育)の対象(盲・聾、知的障害、肢体不自由、病弱)に、学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、高機能自閉症を加える。2003年3月に公表された文部科学省の特別支援教育のあり方に関する調査研究協力者会議の最終報告を契機として、教育政策上の言葉として使われるようになった。この背景には、1994年にユネスコ・特別ニーズ教育に関する世界会議で採択された「特別ニーズ教育における原則、政策および実践に関するサラマンカ宣言および行動のための枠組み」がある。国際的には、すべての子供にはそれぞれのニーズがあり、子供の障害の程度や内容によって区分すべきではなく、もともと子供という1つのグループしかないという発想から、インクルージョン(inclusion=包含)という言葉が使われるようになっている。

(新井郁男 上越教育大学名誉教授 / 2007年)

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