養護学校は、2006年(平成18)6月に学校教育法が改正され、2007年4月に特殊教育から特別支援教育に制度改正が行われるまで、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱の児童・生徒を対象とした学校のこと。知的障害養護学校、肢体不自由養護学校、病弱養護学校の3種類があった。一般の幼稚園、小・中・高等学校に準じる教育を行うとともに、障害に基づく種々の困難を克服するために必要な知識、技能、態度、習慣を養うことを目的とする特殊教育諸学校の一つである(障害の程度と基準については学校教育法施行令などに示されている)。ほかに重複(ちょうふく)障害児を対象とした養護学校(国立久里浜(くりはま)養護学校・神奈川県)が特例的に1校あった。
養護学校には現在の特別支援学校と同じように幼稚部・小学部・中学部・高等部を置くことができるようになっていた。養護学校の教育課程では、各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間のほかに「自立活動」(かつては「養護・訓練」とよばれていた)という特別な指導領域を加えていた。自立活動では、障害の状態の改善克服のために必要な知識、様態、態度、習慣を養うための指導が行われる。さらに、知的障害養護学校においては各教科のなかに独自に生活科が付け加えられているのも教育の特色であった。肢体不自由養護学校では、運動機能の向上を図るための指導、病弱養護学校では、健康状態の回復・改善を図るための指導などが特色としてあげられる。知的障害を対象とする養護学校(知的障害養護学校)では、彼らが精神発達の遅滞や社会的適応の点で困難性をもつことから、健常児や肢体不自由、病弱・身体虚弱の場合とは異なった各教科の目標や内容が掲げられており、とくに発達の遅れに対する指導が重要視された。このような指導内容は現在の特別支援学校に引き継がれている。
日本における養護学校の数は、特別支援教育に制度改正される前年の2006年(平成18)には831校あり、児童・生徒数は9万4360人であった。学校数の内訳は、知的障害関係543、肢体不自由関係197、病弱関係91であった。
特殊教育諸学校のうち盲学校と聾(ろう)学校の義務教育制は1948年(昭和23)に施行されたが、養護学校については1979年に義務教育制が施行された。一般の小・中学校の義務教育制に準じ、その設置義務は都道府県に、子供を就学させる義務は保護者にそれぞれ課されていた。なお養護学校の教員は、一般の教員免許状(幼稚園、小学校、中学校、高等学校の教員免許状など)のほかに、養護学校教員免許状を必要としていた。
[佐藤泰正]
盲学校,聾学校とともに障害児を対象とする学校の一つで,精神薄弱(精神遅滞),肢体不自由,病弱・身体虚弱の各障害児を対象とする3種類の養護学校がある。1947年に制定された学校教育法71条によれば,障害者に対して〈幼稚園,小学校,中学校又は高等学校に準ずる教育を施し,あわせてその欠陥を補うために,必要な知識技能を授けることを目的〉としている。6歳から12歳までを対象とする小学部と,13歳から15歳までを対象とする中学部を設けることを基本とするが,幼稚部,高等部を設置することもできることになっている。入学する障害児の障害の程度は学校教育法施行令(1953)22条の2に定められている。大まかにみて障害児学級(特殊学級)が軽度であるのに対して,養護学校は中度ないし重度を対象とする。
欧米ではすでに19世紀から〈白痴学校schoolfor idiots〉などの名称で設立され,今世紀に入る前後から義務教育制度に組み入れられた。これに対して日本では,1872年(明治5)に制定された〈学制〉に〈廃人学校アルヘシ〉の規定はあったが実際には設立されず,1941年の国民学校令施行規則53条にも〈身体虚弱,精神薄弱其ノ他心身ニ異常アル児童ニシテ特別養護ノ必要アリト認ムルモノノ為ニ特ニ学級又ハ学校ヲ編成スルコトヲ得〉との規定があったが,これも学校については実施されなかった。第2次大戦前には,肢体不自由児を対象とした東京市立光明(こうめい)学校(1932開設),精神遅滞児を対象とした大阪市立思斉(しせい)学校(1940設立)が存在したにすぎない(両校とも各種学校として認可されていた)。養護学校は,戦後の学校教育法ではじめて正式に位置づけられた。すなわち,同法22条および39条において保護者に対してその子女を就学させる義務を,また74条において都道府県に対してそのための学校を設置する義務を規定している。しかし,財政上の理由などがあげられてその施行は延期され,79年4月1日に至ってようやく義務制に移行した。養護学校の設置はそれ以前から徐々になされてきたが,79年前後から急速に増加し,96年5月現在,学校数は975(国立45,公立913,私立17),うち精神薄弱養護学校511,肢体不自由養護学校191,病弱養護学校95で,児童生徒数は8万6293(幼稚部1628,小学部2万8630,中学部2万0508,高等部3万5527,専攻科を含む)となっている。なお,1996年3月の養護学校中学部卒業生の後期中等教育への進学率は84.9%に達しており,今後は無選抜による希望者全員進学制を確立する方向で制度・施策を整備することが求められよう。2007年4月に学校教育法の改正が施行され,特別支援学校の名称が使用されるようになった。
→障害者教育
執筆者:茂木 俊彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
1947年(昭和22)の学校教育法に定められた障害児学校の一つ。知的発達障害者・肢体不自由者・病弱・身体虚弱者を対象に,幼稚園から高等学校に準じる教育,および障害を補うための知識・技能を授ける学校。56年公立養護学校整備特別措置法により都道府県に設置が進められ,79年度から義務教育制となった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…その意味で障害児教育は通常の教育と無関係な特殊なものではなく,普通教育の一環として位置づけられる教育である。
[教育機関]
盲学校,聾学校,養護学校のほか,障害児学級(学校教育法上は特殊学級)がある。養護学校には肢体不自由,病弱,精神遅滞の3種類にそれぞれ対応したものがある。…
※「養護学校」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加