各元素に固有な線スペクトルをもつX線で、固有X線ともいう。X線管などで高速の電子が陽極物質に衝突すると、特性X線と連続X線が放射される。特性X線は、物質内原子の内殻の電子が入射電子によりたたき出されてできた空孔に、外側の殻の電子が遷移して発生する。K殻に落ち込むときに放射されるX線の一群がK系列のスペクトルをつくる。同様にL系列、M系列などが続き、この順に波長が長くなる。L、M殻からK殻へ遷移するときはそれぞれKα線、Kβ線という。L、M殻などのエネルギー準位は微細構造をもつので、スペクトルはさらに近接した線に分かれる。なおKα線の強度はスペクトル中でもっとも大きいので、X線回折の実験によく使われる。
特性X線の振動数νは、その放射にかかわる準位間のエネルギー差ΔEとボーアの振動数条件hν=ΔEの関係がある。したがってKα線の波長λKαはK、L殻の電子の束縛エネルギーをWK、WLとすれば、hc/λKα=WK-WLで与えられる。またK系列のX線が放射されるためには、K殻の電子がたたき出されることが必要で、それに要する電子の最小の加速電圧VKはeVK=WKを満たし、励起電圧とよばれる。たとえば銅に対してはλKα=1.54Å,VK=9.0kVである。特性X線のスペクトルは元素の原子番号に対して規則正しい関係(モーズリーの法則)があり、同一系列の特性X線の波長は原子番号が大きくなるとともに短くなる。
物質に電子のかわりにX線やイオンを照射してもX線が発生する。X線照射の場合、特性X線だけが得られ、とくに蛍光X線とよばれる。イオン照射の場合、イオンは電子に比べて重いため制動放射はおこりにくく、連続X線の成分は少なく、ほとんど特性X線だけが生ずる。
[菊田惺志]
固有X線ともいう.加速電子を対陰極に当てて発生させたX線は,ある波長範囲にわたって連続的に分布した連続スペクトルと,対陰極物質の元素に固有の固有スペクトルとからなる.連続スペクトルは,高速電子が急激に対陰極によって阻止されたとき,そのエネルギーを電磁波エネルギーにかえる結果として現れる制動放射である.固有スペクトルは,加速電圧が対陰極物質の励起電圧を超えると現れる.これは各元素に特有の波長をもつ多数の線からなっているので,特性X線とよばれる.その波長は,対陰極物質の化合状態,管電圧,X線の発生方法によらない.また,物質をX線照射したときに出る二次X線中の特性X線は蛍光X線であり,これを用いて構成原子の分析を行うことができる([別用語参照]蛍光X線分析法).これらの特性X線をK,L,M,N,O系列に分ける.各元素の同系列に属する線の波長は,原子番号Zの2乗に逆比例し,モーズリーの法則に従う.その波数 は,
で表される.ここで,Rはリュードベリ定数,bはしゃへい定数,m,nは整数である.特性X線の現れる機構はボーアの原子模型に従って説明される.つまり,どれかの準位にある電子が加速電子により原子の外に放出されると,その空位に,より高準位の電子が落ち込み,そのエネルギー準位の差に相当する特性X線が放出される.たとえば,K準位の空位にL準位の電子が遷移すれば Kα 線が出る.各系列の特性X線はさらに細分される.たとえば,Kα 線は二重線で α1,α2 からなる.L系列はK系列より複雑である.M系列は重元素に見いだされ,N系列はU,Th,Biに,またO系列はThに見いだされている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… X線管によって得られるX線には2種類のものが含まれている。一つは対陰極中の元素の種類で決まる線スペクトルからなるもので,これを特性X線または固有X線characteristic X‐raysと呼ぶ。対陰極に衝突した電子が対陰極の原子の内殻電子をたたき出して生じた空孔に,外殻の電子が落ち込んで元の状態に戻るとき,そのエネルギー差をX線として放出するもので,発生の機構は蛍光X線の場合と同じである。…
※「特性X線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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