狸・貍(読み)たぬき

精選版 日本国語大辞典 「狸・貍」の意味・読み・例文・類語

たぬき【狸・貍】

〘名〙
① イヌ科の哺乳類。体長五〇~六〇センチメートル。尾は太く足が短い。体毛はふつう灰褐色で顔や足は黒く、背に不明確な十文字状の黒毛があり、「十字ムジナ」ともいう。岩穴などにすみ雑食性で、夜外にでて小動物や果実を食べる。人家付近でも見かけられ、アナグマと混同されやすい。一定の場所に糞をする「ため糞」の習性をもち、また、強く驚くと死んだまね(擬死)をする。東アジアの特産種で、日本では各地の低山に多い。毛皮は防寒用に、毛は上等の筆になる。肉はまずく、あまり食肉としては利用されない。昔話や伝説では、人を化かすとされた。むじな。まみ。たたけ。たのき。《季・冬》 〔十巻本和名抄(934頃)〕
※宇治拾遺(1221頃)八「たぬきを射害し、其ばけをあらはしける也」
② 人をあざむきいつわること。うそをつくこと。また、そのうそや、うそをつく人、したたかで一筋縄ではいかない人をいう。
※浄瑠璃・国性爺後日合戦(1717)三「やいやい、其処な狸め」
※洒落本・色講釈(1801)「客しばらくたぬきをやらかしいたりしが」
④ 「たぬきじる(狸汁)」の略。
※御湯殿上日記‐文明一七年(1485)一〇月一九日「御かはらけ物五色、たぬきもまいる」
※ロッパ食談(1955)〈古川緑波〉うどんのお化け「たぬきといふのもある。これは、何かと思ったら、〈略〉それなら、つひ先頃まで、ハイカラうどんと称していた筈である」
[語誌](1)「法華経音訓」には「狸」にタタケ、タヌキ、ネコマ、「観智院本名義抄」には同じくタヌキ、タタケのほかイタチという訓が付されているので、「狸」字は、現代のように必ずしもタヌキのみを指すわけではなかったと思われる。
(2)狸が人を化かすという俗信は古くからあったらしく、「今昔物語集」には「狐・狸の獣の為に謀らるるには非ず」とあり、「古今著聞集‐一七」には、古狸が人を化かす話が四話おさめられている。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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