室町時代後期から江戸時代にかけて、主としてヨーロッパから輸入された毛織物―羅紗(らしゃ)―の色。やや青みがかった赤で、ワインレッド、臙脂(えんじ)色に対してつけられた名称で、それ以前にはない色名であり、またこのような輸入された毛織物以外に用いられることはなく、しかもその用途にしたがって、猩々緋の陣羽織といった用い方が圧倒的に多い。猩々緋という名称については、舶載物に対する想像から、猩々の生き血を入れて染めたからだなどといわれたが、もちろん単なる俗説で、おそらくコチニールかラック・ダイ(エンジムシ〈臙脂虫=ラックスラック〉からとる同質の染料)を用いて染めたものであろう。
猩々は中国における想像上の動物で、海中に住み、酒を好み、人語を解し、酒を求めてときどき人里に現れるという。頭の毛が赤いというので、これからその名称が出たものと思われるが、戦国時代末期の武将が用いた陣羽織を猩々皮羽織と書いたものもあり、舶載の赤い羅紗をこのようによんだものであろうか。
[山辺知行]
…語源はポルトガル語のカパcapaで,16世紀後半,日本に来航したポルトガル人やスペイン人などが着ていた〈袖もなくすそ広きもの〉(《四季草》)にちなむ。織田信長,豊臣秀吉,足利義昭など当時の支配者たちは早速これをまねて,西洋から献上された最高級羊毛布地の〈猩々緋(しようじようひ)〉(赤紫色)で同形のものを作らせ,カッハ,カハン,カッパなどと称して身辺に置き,権威の象徴とした。それ以前にはみのしかなく,防寒防雨雪用としてカッパは最適のため,鎖国以後も,オランダ人のもたらしたラシャや羅背板(らせいた)などの羊毛布地を使って,上級武士の間に広く使われはじめてゆき,合羽と記され,雨合羽ともいわれた。…
…しかし16世紀半ば以降,南蛮船によってもたらされた羊毛の布地(毛織物)に触れた日本人は,それが羊毛だという意識をいっさいもたずに,ただ従来の衣料の素材にはない優れた質感や特性を知って,毛織物に深い憧憬の念を抱くようになった(以来,明治大正に至っても,羊の毛でつくられた毛織物という認識は一般にはまったくなかった)。初めて日本にもたらされたヨーロッパ産の毛織物は,1555年(弘治1)に来航したポルトガル政府官許の貿易船が舶載したラシャ(羅紗)であるが,その後もラシャやその中の最高級品〈猩々緋(しようじようひ)〉などが,以後日本との貿易を円滑にするために藩主たちへ献上されつづけた。たとえばゴア総督の使節は,徳川家康に金糸でししゅうした〈羅紗十端〉を献上している。…
…ヨーロッパでは毛皮に似せて作られたといわれ,14世紀ころすでにセルビア(現,ユーゴスラビア)の古称であるラシュカRaškaで特産品として織られており,ドゥブロブニクの商人を通じてイタリア,スペイン,ポルトガル,ドイツ,ハンガリーなどヨーロッパ諸国に広まった。日本には南蛮貿易で16世紀後半にもたらされ,戦国武将の間でラシャ製の陣羽織が愛好され,とくに緋ラシャは猩々緋(しようじようひ)と呼ばれて珍重された。江戸時代になると,さらに合羽(かつぱ)や火事羽織などに広く用いられた。…
※「猩猩緋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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