ジャーナリスト、ノンフィクション作家、政治家。11月20日長野市生まれ。信州大学人文学部卒業後、出版社勤務などを経て明治大学大学院へ。橋川文三(1922―1983)に師事し、ナショナリズムの理論を研究。1983年(昭和58)『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』を発表。1986年、テレビの報道番組キャスターとなる。1986年、『ミカドの肖像』(ジャポネズリー研究会特別賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞)で、「土地」「ブランド」「ポップ歌手」「ゲーム」など、これまでにない観点から天皇制を捉えて話題になった。『土地の神話』(1988)では、「土地」という観点から、東京・田園調布という街の成立と東急グループのルーツ、近代天皇制国家と大都市東京の成立を探る。『欲望のメディア』(1990)では映像メディアと近代日本をテーマとし、『ミカドの国の記号論』(1991)では、天皇家による「家庭モデル」から、Vサイン、「スピッツ」の消長など、日本社会のさまざまな表象と記号から日本人を解き明かそうとした。1992年(平成4)には『ラストニュース』(弘兼憲史画)の原作を担当し、劇画にも進出(~1995)。
1996年『文芸春秋』において「日本国の研究」の連載開始。大規模林道や長良(ながら)川河口堰(かこうぜき)、道路公団など、近代日本の負の遺産ともいえる公共事業の暗部についてレポートを開始する。同連載は『文芸春秋』読者賞受賞。単行本は1997年、続編は1999年に刊行されたが、「はこもの」行政の限界や官官接待の実態などが次々と明るみに出るとともに、猪瀬の問題意識は注目を集めるようになる。このように、「日本の近代」という大きなテーマで注目されてきた猪瀬だが、この間には市井(しせい)の人のインタビュー集『日本凡人伝』(1983)や、唱歌を世に送り出した人々を描いた『ふるさとを創った男』(1990)などの著作も発表している。
『ペルソナ――三島由紀夫伝』(1995)、『マガジン青春譜――川端康成(かわばたやすなり)と大宅壮一(おおやそういち)』(1998)、『ピカレスク――太宰治(だざいおさむ)伝』(2000)の文芸評伝三部作ののち、2001年、『日本の近代――猪瀬直樹著作集』全12巻刊行開始(2002年完結)。
2000年より政府税制調査会委員。2001年、行革断行評議会委員となり特殊法人などの民営化に取り組む。2002年より司法改革国民会議運営委員、道路関係四公団民営化推進委員会委員。東京工業大学特任教授のほか、メールマガジン『日本国の研究――不安との訣別/再生のカルテ』編集長でもある。2007年6月より東京都副知事、2012年12月より2013年12月まで東京都知事。
『ミカドの肖像』から『ミカドの国の記号論』までの猪瀬の関心は、近代日本が天皇制との関係においてどのように形成されたかだった。三島、川端、太宰を追った評伝では、近代日本人の自意識が文芸作家においてどのように表現されたかが問題だった。しかし、近代が成熟したときに、近代そのものの限界性も明らかになった。『日本国の研究』からメールマガジンや政府諸委員会の委員に臨む猪瀬に一貫しているのは近代の終わりという問題意識である。
[永江 朗]
『『ふるさとを創った男』(1990・日本放送出版協会)』▽『『マガジン青春譜――川端康成と大宅壮一』(1998・小学館)』▽『『ピカレスク――太宰治伝』(2000・小学館)』▽『『日本の近代――猪瀬直樹著作集』全12巻(2001~2002・小学館)』▽『『天皇の影法師』(朝日文庫)』▽『『昭和16年夏の敗戦』『日本国の研究』『ペルソナ――三島由紀夫伝』(文春文庫)』▽『『ミカドの肖像』『土地の神話』『日本凡人伝』(新潮文庫)』▽『『ミカドの国の記号論』(河出文庫)』▽『猪瀬直樹原作・弘兼憲史画『ラストニュース』(小学館文庫)』
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