わが国で近世から大正期まで中国地方山地を中心に行われていたたたら製鉄法において、鉧押(けらおし)法という一種の直接製鋼法で得られた良質鋼の一名を玉鋼という。鉧押法では操業終期に炉体を崩し、炉底に生成している鉧塊を引き出しそのまま冷却するか、あるいは鉄池(かないけ)とよばれる池中へ投入して急冷した。前者を火(ひ)鋼あるいは千草(ちぐさ)鋼、後者を水鋼あるいは出羽(いずは)鋼とよんだ。冷却した鉧塊は銅場(どうば)において、まず大銅(おおどう)という重量1.4トンもの鋳鉄製重錘(じゅうすい)をつり上げ、落下させることによって大割りし、ついで中・小銅、さらに鉄鎚(てっつい)で小割りした。銑鉄、鉱滓(こうさい)、木炭屑(くず)が混入、付着している鉧塊は、この破砕工程、および鋼作場(はがねつくりば)での破面、光沢、展延性による選別工程によって各種等級に選別された。銑鉄を含んでいない良質の鋼塊(径15センチメートル)を頃鋼(ころはがね)といい、以下、角中、中折、小中折、目白、砂味(じゃみ)(径3センチメートル以下)などがあった。これらを造鋼(つくりはがね)と総称した。明治期に海軍工廠(こうしょう)のるつぼ製鋼原料として供給された造鋼を玉鋼と称した。化学成分は、炭素0.9~1.8%、ケイ素0.05%以下、リン0.01~0.02%、マンガン、硫黄(いおう)、銅が痕跡(こんせき)程度、酸素0.01%、窒素0.002%であり、リン、硫黄などの有害不純物がきわめて少ない。日本刀をはじめ刃物の刃部材料に用いられた。
[原善四郎]
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…日本古来の代表的な製鉄方法。粘土でつくられた高さの低い角形の炉で,木炭を燃料として砂鉄を製錬する原始的なものであるが,日本刀の素材である玉鋼(たまはがね)はこの方法でつくられていた。炉の下方から風を送って木炭を燃焼させ,十分に温度を上げてから木炭と砂鉄を交互に層状に投入しながら,連続的に3昼夜ほど操業して砂鉄を還元する。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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