階統制をなした組織において上級者が下級者に対し,その職務の遂行のために発する命令をいう。職務命令という用語は主として公務員関係において用いられ,私的労働関係においては業務命令と呼ばれることが少なくないが,その本質的性格は同一である。いわゆる一般職の公務員は,現行法上,〈上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない〉とされている(国家公務員法98条1項,地方公務員法32条)。この場合の〈上司の職務上の命令〉が職務命令である。職務命令を発することのできる権限を職務命令権という。職務命令は組織上の地位を与えられている特定または不特定の職員に対する命令である点において組織またはその機関そのものに向けられた訓令や通達とは異なるが,訓令・通達は同時に職務命令の内容をなすことがある。職務命令が有効に発せられるためには,上級者が下級者の職務について指揮監督権を有し,その内容が下級者の職務に関するものであること,憲法および法令に抵触しないことが必要である。下級者の職務が上級者の指揮命令に服さない性格のものである場合(職務上の独立)には,上級者はこの職務の範囲に関し職務命令を発することができない。これらの要件を欠く職務命令は違法である。違法な職務命令であってもとくに公務員についてはその違法性が重大かつ明白である場合を除いては,下級者はその職務命令に従わなければならない。これは階統的な職務遂行秩序を確保するためである。
執筆者:中西 又三
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上司が部下の公務員に対し、広くその職務に関して発する命令の総称。書面(訓令、通達)によると口頭(訓示)によるとを問わない。行政組織は上下の命令服従関係を構成しつつ一体となって行政目的を追求する関係にあるから、公務員は上司の適法な職務命令に服従する義務があるだけでなく、違法な職務命令にも服従しなければならない。ただし、犯罪となるような行為を命令するなど、その違法性が重大で明白な場合には無効なものとして服従を拒否することができるし、拒否しなければならないことはいうまでもない。なお、職務命令の効力は直接、抗告訴訟で争うことはできず、他の訴訟の前提問題として、たとえば職務命令不服従を理由とする懲戒処分の取消訴訟においてだけ争うことができる。
[阿部泰隆]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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