個人である消費者が事業者と結ぶ契約の総称。個人と事業者(個人・法人を問わず)との契約であるが、労働契約は含まれない。
[唯根妙子]
消費者契約は、自分が使うために消費者が事業者から購入する商品・サービスやそれにかかわる取引のことである。消費者契約によって起きる消費者のさまざまな肉体的・経済的不利益を消費者問題という。その予防や救済のために2001年(平成13)4月に施行されたのが消費者契約法(平成12年法律第61号)である。消費者契約法では、「消費者」は、「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く)をいう」、「事業者」は「法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう」と定義されている(同法2条)。
消費者保護基本法(1968年制定)が2004年に消費者基本法に改正され、消費者の権利が明記された。そして、消費者契約法では消費者と事業者との間には情報の質や量、交渉力に格差があることを考慮し、事業者の責務と消費者の努力規定を明記した。これにより、民法の契約の考え方よりも、消費者契約については消費者保護が手厚くなっている。
[唯根妙子]
消費者問題は、第二次世界大戦後の大量生産・大量消費の高度経済成長期にもたらされた多くの偽装表示、欠陥商品、公害などの製品の安全性や品質・表示の問題から始まった。
1970年代以降、訪問販売やマルチ商法による悪質商法が横行し、1980年代には豊田商事事件などの経済的な消費者被害が社会問題化した。それまで、消費者契約の個別的な被害は少額であったため法規制は後追いだった。消費者契約にもっとも有効な法律である1976年(昭和51)にできた訪問販売等に関する法律(現、特定商取引に関する法律。昭和51年法律第57号)も限定的であり、クーリング・オフも当初は4日間しか認められていなかった。
消費者問題に対応するため、1970年に設立された国民生活センターをはじめ全国各地に消費生活センターができ、また、消費生活条例なども徐々に増えていくことで、消費者契約に関する被害の実態の把握や個別的な救済は、地道に続けられてきた。しかし、バブル経済とその崩壊、金融ビックバン、地球温暖化、インターネットの普及による国際化や高速化、情報サービスなどの目に見えない消費者契約の増加など、消費生活を取り巻く生活環境は複雑化しながら日々変化して、新たな消費者問題が次々と起きてきた。
消費者問題の歴史が大きく動いたのは、21世紀に入ってからである。2000年(平成12)に消費者契約法が成立し、訪問販売等に関する法律が特定商取引に関する法律(特定商取引法)に改正・改称され、金融商品販売法や循環型社会形成推進法、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)なども成立した。2004年には前述の消費者基本法や公益通報者保護法、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(通称ADR法)なども成立した。
[唯根妙子]
2009年(平成21)5月には消費者庁関連3法が成立して、9月に消費者庁・消費者委員会が設立され、第二次世界大戦後60年にわたって続けられてきた消費者問題解決の受け皿が国の機関としてできた。消費者契約に関連する法律は200以上あるといわれるが、まずは国民が安全・安心して生活するために重要な30の法律を横断的に取り仕切るのが、消費者庁・消費者委員会である。
消費者契約で重要な消費者契約法は2006年の改正で、適格消費者団体(多数の消費者の利益のために不当な行為をする事業者を提訴できる内閣総理大臣認定の消費者団体)による消費者団体訴訟制度が導入された。消費者契約法は民事ルールといわれるもので、事業者を取り締まるものではない。この法律では、事業者が消費者を勧誘するときに、以下のような不適切な行為(不当な勧誘行為)があった場合に、契約した後でも取り消すことができるというルールを定めている(消費者契約法4条)。(1)不実告知(重要事項について事実と異なることを告げる)、(2)断定的判断の提供(将来における変動が不確実なのに確実に利益があると告げる)、(3)不利益事実の不告知(消費者にとって不利益となる事実を隠す)、(4)不退去(消費者の自宅や職場で、消費者が帰ってほしいと告げているのに帰らない)、(5)監禁(事業者の販売店等で、消費者が帰りたいと告げているのに帰さない)。また、契約書に、消費者の権利を不当に害する条項、たとえば、(1)事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項、(2)事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項、(3)法外なキャンセル料を要求する条項、(4)遅延損害金で年利14.6%を超えてとろうとする条項、(5)消費者の利益を一方的に害する条項、などが書かれていた場合、その条項は無効になるとしている(同法8~10条)。
もし、消費者契約を消費者が取り消したい場合には、事業者にはっきり告げなければならない。単に「説明がなかった」というだけでは取り消せないし、契約と直接関係ないことで事業者に問題があっても契約は取り消せない。最終的な判断は裁判に委ねられており、最近では適格消費者団体による差止訴訟も含めて、すでに多数の判例が出ている。それにより徐々に消費者契約の具体的な取消しや不当条項の無効の考え方が示されてきている。これからの事業者には、消費者が主役の安全・安心な消費生活を送るために、消費者契約法を遵守した姿勢で消費者に臨み、対処することが期待されている。
[唯根妙子]
国際私法においても、消費者契約における消費者には特別の保護が与えられている。「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)によれば、一般的な契約については、当事者による準拠法の選択が認められ、その選択がない場合には最密接関係地法によるとされているが(同法7条・8条)、消費者契約については次のような特則が置かれている。すなわち、消費者契約の成立および効力については事業者と消費者との間の消費者契約において準拠法が選択されていても、消費者は自己の常居所地法がそれと異なる場合において、その法の特定の強行法規を適用すべき旨の意思を事業者に対して表示したときには、その強行法規が適用される(同法11条1項)。また、消費者契約の準拠法が選択されていない場合には、消費者の常居所地法による(同法11条2項)。
以上が、消費者契約の準拠法についての基本原則であるが、これに加えて、契約を成立させるための外部的方式、すなわち方式についても特別の定めを置いている。その理由は、国際私法の一般原則によれば、(1)契約成立の準拠法上の方式に適合しているか、(2)契約締結地法上の方式に適合しているか、そのどちらでも契約は有効に成立するとされているが(「法の適用に関する通則法」10条1項・2項)、諸国の消費者契約に関する法律は、契約締結段階において書面によるといった方式を要求することにより消費者が軽率に契約を締結することがないようにしようとする手法が採用されていることが多いことにかんがみると、同法第10条第2項の定める契約締結地法上の方式でもよいとすることは、消費者保護に反する結果となりかねないからである。そこで、同法第11条3項から5項は、消費者契約の方式について特則を置いている。すなわち、消費者契約の成立について消費者の常居所地法以外の法が選択されている場合であっても、消費者契約の方式について消費者がその常居所地法中の特定の強行法規の適用意思を事業者に表示したときは、もっぱらその強行規定を適用すること(同法11条3項)、消費者契約の成立について消費者の常居所地法が選択されている場合において、消費者契約の方式について消費者がその常居所地法中の特定の強行法規の適用意思を事業者に表示したときは、もっぱらその強行規定を適用すること(同法11条4項)、消費者契約の成立について法選択がない場合には、消費者契約の方式は消費者の常居所地法によること(同法11条5項)、以上が定められている。
なお、「法の適用に関する通則法」第11条が適用される「消費者契約」は、以下のように定義されている。すなわち、(1)一方の当事者が個人である消費者であること、(2)その個人は事業として、または事業のために契約の当事者となる場合でないこと、(3)相手方は事業者であること(法人その他の社団、または財団であれば当然、個人であっても、事業として、または事業のために契約の当事者となる場合にはこれに該当する)、(4)前記の当事者間で締結される契約であること、(5)ただし、労働契約ではないこと、以上を満たすものでなければならない。労働契約が除外されているのは、それについての特則が別に定められているからである(同法12条)。
また、定義上は消費者契約に該当しても、次の四つの場合は除外されている。消費者保護は厚ければ厚いほどよいというものではなく、健全なビジネス上の予測に反して消費者の常居所地法上の強行規定が適用されるようなルールのもとでは、事業者側に不合理なコストが発生し、結局、それは全消費者を含む市場全体が負担することになってしまうからである。
除外される第一の場合は、事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地に所在した場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地に赴いて当該消費者契約を締結したときである(同項1号)。たとえば、旅行で来日した中国在住の消費者が日本の小売店(事業者の事業所)で買い物をするような場合である。
除外される第二の場合は、事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地に所在した場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地において当該消費者契約に基づく債務の全部の履行を受けたとき、または受けることとされていたときである(同項2号)。たとえば、中国在住の消費者が日本のホテルに宿泊したような場合である。
以上の第一の場合と第二の場合における消費者は「能動的消費者」とよばれ、たとえば常居所地法である中国法上の強行規定が適用されることは、日本の事業者にとって予見困難であり、取引の安全を害することが理由とされている。もっとも、たとえば日本の事業者が中国の消費者をターゲットにしてビジネスを行っているような場合には、このような取引の安全への配慮は不要なので、消費者がその常居所地において事業者から勧誘を受けて消費者契約を締結したときには、これらの除外規定の例外とされている。
除外される第三の場合は、消費者契約の締結の当時、事業者が、消費者の常居所を知らず、かつ、知らなかったことについて相当の理由があるときである(同項3号)。これは、たとえば、インターネットを介して契約の締結も履行も行われる仕組みの消費者契約取引の場合であり、このような場合に後になって消費者がその常居所地法上の強行法規の適用を主張することを認めるのは、取引の安全を害するおそれがあるからである。
除外される第四の場合は、消費者契約の締結の当時、事業者が、その相手方が消費者でないと誤認し、かつ、誤認したことについて相当の理由があるときである(同項4号)。これも取引の安全に配慮した例外である。
他方、国際裁判管轄についても消費者保護を図るべきであるという考え方がある。すなわち、消費者契約をめぐる紛争についての管轄合意は事後的に締結されたものであるか、または消費者に管轄裁判所の選択肢を増やすものだけを有効とする一方、消費者が提訴する場合にはその常居所地の管轄を付加的に認めるといったルールの導入である。ヨーロッパ連合(EU)の「民事及び商事に関する裁判管轄及び判決の承認・執行に関する規則」(2000年。ブラッセルⅠ規則と称される)第15条以下では前記のような保護を与えている。
日本では、2011年(平成23)の民事訴訟法の改正により、消費者契約事件についての国際裁判管轄について、次のようなルールが導入された。すなわち、(1)消費者から事業者に対する消費者契約に関する訴えについては、他の管轄原因がある場合に加えて、訴え提起時または消費者契約締結時における消費者の住所が日本にあれば国際裁判管轄を肯定し(同法3条の4第1項)、(2)逆に、事業者から消費者に対する訴えについては消費者の住所が日本にない限り、国際裁判管轄を認めないこととするとともに(同条の4第3項)、(3)合意管轄については、(a)紛争発生後の合意である場合(同法3条の7第5項柱書)、(b)消費者契約締結時の消費者の住所地国での提訴を可能とする非専属的管轄合意(法律上認められる他の国の管轄を排除しないもの)である場合(同項1号)、または、(c)消費者が合意された国の裁判所に提訴したか、もしくは、事業者が提起した訴えについて消費者が管轄合意を援用した場合(同項2号)、以上のいずれかの場合にのみ有効とする、以上のとおりである。
(1)によれば、訴え提起時の消費者の住所が日本にあればよいとされているため、外国在住中に締結した消費者契約に関して、日本に移住した後に当該外国所在の事業者に対して提起した訴えであっても、原則として日本に国際裁判管轄があることになる。また、「法の適用に関する通則法」第11条6項の定めと異なり、日本の消費者が外国に自主的に出かけて消費者契約を締結した場合(外国旅行中の食事や買い物など)、締結は隔地的に行われたが、契約の履行はすべてその外国でされた場合(インターネットを通じて予約した外国ホテルでの宿泊など)、あるいは、契約締結当時、外国の事業者が消費者の住所が日本にあることやその者が消費者であることを知らず、かつ、知らなかったことに相当の理由があるような場合についての例外は設けられていない。そのため、このような場合であっても、日本の消費者から外国事業者に対する訴えについて原則として日本に国際裁判管轄があることになる。しかし、これらのなかには、日本の国際裁判管轄を肯定することは被告となる事業者にとって酷にすぎ、そのコストを市場全体が負担することを正当化できないこともありうるため、そのような場合には、民事訴訟法第3条の9の定める特別の事情があるとして、訴えを却下することができる。
(2)のとおり、消費者契約事件において事業者が消費者を被告として提訴する場合には、契約債務履行地管轄や財産所在地管轄などの同法第3条の3に規定された各ルールは適用されず、(3)が適用される場合のほかは、消費者の住所が日本にあるときだけ国際裁判管轄が認められることになる。
(3)は、事業者の用意した約款により消費者契約が締結されることが多いという実情にかんがみ、その約款上の裁判管轄合意により消費者が不利益を被ることがないようにするものである。すなわち、(3)(a)は、紛争発生後の合意であれば、消費者がその効果を認識したうえで合意していることを前提としていると考えられるのに対して、事前の合意はそのような認識を欠くおそれが大きいと考えられるためである。(2)によれば、事業者からの消費者に対する訴えについては、訴え提起時の消費者の住所地国にのみ管轄が認められるところ、(3)(b)は、消費者契約締結時の消費者の住所地国でも提訴可能とする管轄合意を有効とするものである。ただし、それは非専属的管轄合意でなければならず、契約締結時の消費者の住所地国のみを指定する専属的管轄合意の場合には、(3)(c)に該当するときを除き、非専属的管轄合意とみなされる(同法3条の7第5項1号括弧(かっこ)書)。(3)(c)は、消費者が管轄合意を自己の利益のために積極的に利用した場合には、もはやその管轄合意の効力を争えないこととするものであり、禁反言の原則に基づいている。消費者が管轄合意を援用するとは、事業者が消費者の住所地国で提起した訴訟に対して、消費者が管轄合意によれば事業者の主たる営業所所在地国の専属管轄となっている旨の主張をして、訴えの却下を求めることである。このような行動をとった消費者が、管轄合意に従って事業者により外国で提訴された場合には、もはやその管轄合意の有効性を争うことはできないわけである。
なお、消費者契約紛争の仲裁による解決については、日本の仲裁法附則第3条によれば、交渉力に格差があり、仲裁合意が弱者側の利益にならないおそれがあることを考慮し、消費者と事業者との間の仲裁合意は、消費者が仲裁申立をしない限り、消費者側から一方的に解除することができるとされている。そして、事業者が消費者を相手として仲裁を申し立てた場合には、仲裁廷はできる限り平易な表現を用いて消費者に対して仲裁合意を解除することができることなどを書面で通知することなども定められている。
[道垣内正人 2022年4月19日]
『後藤巻則著『消費者契約の法理論』(2002・弘文堂)』▽『吉田良子編著、藤井昭子・山田幸子・好光陽子著『消費者問題入門』第3版(2006・建帛社)』▽『樋口一清・井内正敏編著『日本の消費者問題』(2007・建帛社)』▽『佐々木幸孝・齋藤雅弘・安藤朝規編『ガイドブック消費者契約法』第2版(2010・法学書院)』▽『長尾治助他編『レクチャー消費者法』第5版(2011・法律文化社)』▽『林郁・圓山茂夫編著、松本恒雄・木村達也監修『実践的消費者読本』第5版(2012・民事法研究会)』▽『消費者庁消費者制度課編『逐条解説 消費者契約法』(2015・商事法務)』
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