ある特定の人Aが他の特定の人Bに対してなんらかのこと(作為または不作為)を法的に要求しうる立場にあるとき,AはBに対して請求権をもつという。ドイツ民法は,請求権を〈他人に対して一定の作為または不作為を要求しうる権利〉と定義している(194条1項)。このように定義される請求権とは,ある権利の作用・効力の側面を表している。債権は債権者が債務者に対して一定の給付を請求しうる権利であるから,債権は請求権であるといわれる。これは,債権と請求権とは同一であるとか,債権は請求権に尽きる,といっているのではなく,債権の主たる作用・効力が請求権として現れることをいっているにすぎない(物権の主たる作用・効力が有体物に対する支配権として現れることから物権は支配権であるといわれるのと同様である)。
請求権は債権の効力として債権から生ずることが最も普通の事態であるが(というのは,債権とは本来,請求権を通じて実現される権利だから),物権その他の権利または法律関係からもまた請求権が発生することがある。たとえば,A所有の土地上にBが無権限で工作物を設置するなどしてAの所有権をBが妨害する場合には,Aは所有権に基づきBに対し妨害の排除(工作物の撤去)を請求することができる(所有権に基づく妨害排除請求権)。もし妨害が不法行為を構成する場合には(つまり民法709条に該当するならば),AはBに対し損害賠償を請求することができる。ちなみに,この場合〈AはBに対し損害賠償請求権をもつ〉と一般にいわれるが,これは損害賠償債権の意味である。このように債権のことをしばしば請求権の語で表すことが慣用となっている。
以上のほか,一定の親族間での扶養請求権,親権に基づく子の引渡請求権(ないしは親権行使に対する妨害排除請求権),相続人が相続財産の回復を求める相続回復請求権(884条)などが債権法以外の分野でみられる請求権の例である。
これら請求権の役割は,基礎にある権利や法的地位の実現・維持に奉仕する点にある。すなわち,債権においては債務者との関係で債権内容を実現することに奉仕し,債権以外の権利や法的地位にあっては,これを脅かす第三者に対する関係での権利や地位の保護手段としてはたらく。請求権の行使に対して相手方(義務者)が応じないときは,給付の訴え(給付訴訟)によって裁判上その実現を図ることになる。
執筆者:奥田 昌道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ある人が他の人に対して一定の行為(作為・不作為)を要求する権利。しかし、請求権は、物権、債権、親族権などのような実体的な権利概念ではなく、これから生ずるものとして動的に(すなわち、裁判上主張されるものとして)観念された権利概念である。したがって請求権は、すべて実体的な権利を基礎として生じる。たとえば、実体的な権利としての所有権の侵害があった場合に、それを排除するため所有権に基づく妨害排除請求権が生じ、あるいは売買契約が結ばれると、それに基づいて売買代金請求権や給付請求権が生じるなどである。請求権はまた、客体に対する支配を内容とするところの支配権とも異なり、義務者に対し一定の行為を要求する権利である。したがって、支配権が絶対権とよばれるのに対して、請求権は相対権とよばれる。なお請求権とよばれながら形成権と解されるものとして、売買代金減額請求権(民法563条1項)、建物買取請求権(借地借家法13条)などがある。
[淡路剛久]
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