製造物の欠陥によって製造物の使用者が生命・身体・財産などに損害を受けた場合に、製造業者が民事的に負担しなければならない損害賠償責任のこと。略称PL。製造物責任に関する法律を製造物責任法あるいはPL法とよぶ。
近代法の原則では、製造業者は過失というおちどがないかぎり製造物の欠陥によって他人に損害を与えても賠償責任を負うことはなかった(過失責任の原則、民法709条)。ところが、社会の高度化に伴って特殊な危険をはらむ製品が大量に市場に流通するようになり、他方で特殊な危険ゆえに製造業者がいかに注意を払っても損害の発生を防止できないという事態が発生するに至った。そこで危険物を生産流通させ利益を得ている企業などの製造業者に対し、製造物の欠陥によって消費者に発生した損害について厳格な責任を負わせることが公平であると強く意識されるようになり、客観的な製造物の欠陥とこれによる損害の発生があれば製造業者が賠償責任を負う「製造物責任」という法概念が生まれたのである。起源はアメリカ合衆国で、1960年代初頭に無過失責任を基本とする「厳格責任」という概念が提唱され、1963年にカリフォルニア州最高裁判所で採用されたのが最初である。
1970年代には薬害事件や航空機事故などを契機にEC(ヨーロッパ共同体)諸国においても議論がなされ、1985年に欠陥製造物についてのEC指令がEC閣僚理事会にて採択された。日本では、昭和30年代に発生した「ヒ素ミルク事件」「サリドマイド訴訟」などの食品薬害事件、昭和40年代以降深刻となった公害問題をきっかけに製造物責任についての議論が始まり、無過失責任を基本とした「製造物責任法(平成6年法律第85号)」が1994年(平成6)に国会で成立、翌1995年7月1日より施行されている。
PL法の施行と前後して、民間の企業が業種団体ごとに直接資金を拠出したり、財団法人を設立したりして、PLセンターとよばれる機関が製品分野別に設置されるようになった(医薬品PLセンター、家電製品PLセンター、自動車製造物責任相談センター、住宅部品PLセンター、玩具PLセンター等)。それぞれのセンターによって業務内容は異なるが、製品についての相談を受け付け、紛争解決の斡旋(あっせん)、調停、あるいは裁定を行っている。なお、民間のPLセンターとは別に、全国の都道府県市町村等に設置されている消費生活センターでもPL事故について専門相談員による相談を受け付け、重要案件については苦情処理委員会が苦情内容を検討する仕組みとなっている。
[木ノ元直樹]
日本の国際私法典である「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)第18条によれば、生産物責任(これは農産物も含む趣旨であり日本の製造物責任法よりも範囲が広い)については、被害者が生産物の引渡しを受けた地の法によるが、その地における生産物の引渡しが通常予見できないものであるときは、生産業者等(生産物を業として生産・加工・輸入・流通・販売した者および生産物にその生産業者と認めることができる表示をした者)の主たる事務所の所在地法によるとされている。このルールは、生産業者等が市場としている地の法が適用されるのであればリスク計算をすることができ、責任保険をかける等の措置をとることも可能であるが、そうでない地の法が適用されると事業者に予見できない負担となり、不合理であると考えられたことに基づくものである。
生産物責任の準拠法はこのように定められているものの、それが確定的に準拠法とされるわけではなく、不法行為の当時に当事者が法を同じくする地に常居所を有していたとか、当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたといった事情などに照らして、明らかにより密接に関係する他の地があるときは、当該他の地の法による(同法20条)。これは、最密接関係地法の適用を確保しようとする立法意思の表れであるが、不法行為の準拠法が明確にはわからず、たとえば和解交渉においていかなる法に基づいて議論するのかが不明確になるというデメリットがある。
不法行為の当事者は、不法行為後であれば、合意により不法行為の成立・効力の準拠法を変更することができる(「法の適用に関する通則法」21条本文)。ただし、その準拠法変更が第三者の利益を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない(同条但書)。不法行為債権も財産権であることから、実質法上、当事者による処分が認められるのと同様に、国際私法上も、第三者の権利を侵害しない限り、準拠法の変更を認めてよいとの考えに基づくものである。しかし、この変更は黙示的にも(明示しなくても)可能であり、たとえば、本来の準拠法がA国法であっても、和解交渉や訴訟において、両当事者がB国法を前提とする主張をしていると準拠法はB国法に変更されたとされる可能性があり、その変更によって不利益を被ることになる当事者から錯誤による変更であるとの主張が出てくるといった混乱も予想される。また、弁護士が代理しているとすれば、弁護過誤になるおそれもあることから、立法論としての批判もある。
不法行為は公益とのつながりが深いことから、外国法の適用が公序を害するおそれがあるとされ、「法の適用に関する通則法」第22条は、外国法が準拠法とされ、不法行為の成立が認められるときであっても、日本法上も不法行為になるのでなければ損害賠償等の請求は認めず(同法22条1項)、また、日本法上も不法行為となるときであっても、日本法上認められる損害賠償等しか請求することができないとされている(同条2項)。
[道垣内正人 2022年4月19日]
製造物の欠陥によって消費者に生じた損害について認められる製造者の重い責任をいう。製造物責任は,アメリカの判例で発展したが,ヨーロッパ共同体(EC)は,1985年に製造物責任指令を理事会が採択して加盟国に指令に従った立法を義務付け,その後ヨーロッパ連合(EU)に加盟する大部分の国はその義務を果たした。日本で,食用油の欠陥による身体傷害をもたらした森永ヒ素ミルク中毒事件やカネミ油症事件,医薬品の副作用による健康被害をもたらしたサリドマイド事件やスモン病事件などは製造物責任に該当する事件である。従来は,過失がなければ責任がないという過失責任の原則を定める民法の規定(民法709条)のもとで,解釈により製造者に重い責任を認めるべきだという考え方が学説,裁判例で採用されていたが,1994年にようやく製造物責任法(1995年法律第85号)が公布され,95年7月1日から施行されるに至った。この法律は,製造物の欠陥により人の生命,身体または財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより,被害者の保護を図り,もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている(1条)。
この製造物責任法は,過失責任の原則を修正し,製造物に欠陥があれば製造者には責任があり,その欠陥についての製造者の過失の有無を問わないという欠陥責任を採用した。すなわち,製造業者等は,その製造,加工,輸入等をした製造物につき,その引き渡したものの欠陥により他人の生命,身体または財産を侵害したときは,これによって生じた損害を賠償する責めに任ずるとされる(3条本文)。それは一種の無過失責任である。被害者(原告)は,製造物の出荷時に欠陥があったことを証明しないと製造者等(被告)の責任を問うことができない。テレビの出火の場合のように,製造物の欠陥によって製造物以外の生命,身体または財産に生じた損害(いわゆる拡大損害)についてはこの法律に基づく賠償請求が認められるが,その損害が当該製造物についてのみ生じたときは,この法律に基づく請求は否定される(3条但書)。前例で,テレビのみの焼失の場合には,民法の過失責任の原則によって処理する趣旨である。アメリカの判例では,製造物責任につき,製造者に実際の損害額の2倍とか3倍の賠償をさせるという懲罰的賠償が認められているが,日本ではそれは採用されていない。このように,日本の製造物責任法は製造者の責任が過度にならないように配慮している。
なお,この法律において〈製造物〉とは,製造または加工された動産をいい(2条1項),〈欠陥〉とは,当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう(2条2項)。また,〈製造業者等〉とは,当該製造物を業として製造,加工または輸入した者だけではなく,自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名その他の表示をした者等を含むとされている(2条3項)。
執筆者:川井 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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