いったんは有効に成立した契約を事後的に消滅させること。契約の相手方の債務不履行その他一定の場合(解除原因)に,もう一方の契約当事者には契約を解除する権限(解除権)が発生し,解除権の行使である解除の一方的な意思表示によって,契約は契約締結当時にさかのぼって消滅する(遡及(そきゆう)効)。その結果,すでに履行された債務があれば当事者相互に返還し合う義務(原状回復義務)を生じ,またまだ履行されていない債務があればその履行義務を消滅させる効果をもつ。解除権者に損害が生じていれば損害賠償請求権をも発生させる(民法540条以下)。解除と同様に契約関係の消滅をもたらす法律上の概念はほかにもいくつかあるが,解除は次のような点でそれらとは区別される。詐欺・強迫による契約締結のように契約成立に関する意思表示に欠陥(瑕疵(かし))がある場合に認められる取消しとは,意思表示自体には欠陥がなかった点で区別される。また,一定の事由が生じたときに自動的に契約の消滅をもたらす解除条件(失権約款)とは,解除の意思表示を要する点で区別される。さらに,賃貸借のような継続的契約関係が将来にむかって消滅する効果を有する解約とは,契約が締結時にさかのぼって消滅する点で区別される。
契約を解除するための解除原因には,法律で定められている法定解除原因と,契約によって当事者が定める約定解除原因とがある。法定解除原因としては債務不履行がすべての契約に共通しているほかに,売買契約に関しては売買目的物に欠陥がある場合に認められるなど,それぞれの契約類型に応じて定められている。約定解除原因の内容は原則として当事者が自由に定めることのできるものであり,代表的な事例は当事者の一方が手形・小切手の不渡事故を起こしたことを解除原因とするものである(それ自体は債務不履行を意味しないが,第三者との間の手形・小切手の不渡事故は債務者の信用不安のあらわれであり,債務不履行の前兆となる)。解除原因があるとき解除権者は契約を解除することができるけれども,原則として解除の意思表示をする前に債務者に対して債務を履行するように催促(催告)することを要する。この催促には時間的な余裕をもたせることを要し,即時の履行を求める催促は法律上は効力を有しない。法律上は相当な期間を定めて,それまでに履行するよう催促することが必要であり,実際上は日時を限ってその日までに債務の履行がなければ契約を解除する旨を文書で通知することが多い。これによって,あらためて解除の意思表示をすることなく,その期限の経過によって契約は解除される。
なお,売買契約,とくに不動産売買においてしばしばみられるように契約締結に当たって手付けが授受されたときには,原則として,当事者は手付金額分を一種の損害賠償として損をすることによって,相手方が債務の履行を開始するまでの間は解除原因も催促もなしに解除することができる(民法557条)。また,月賦による売買契約あるいは訪問販売等による売買契約のように消費生活と密接に関連する取引に関しては,消費者保護のために原則として契約成立後も8日以内であれば,消費者側から解除原因なしに解除することができる(割賦販売法4条の3,訪問販売法6条など。クーリング・オフと呼ばれる)。さらに,〈契約自由の原則〉により,契約当事者は,契約成立後も,解除原因がなかったとしても合意さえすれば契約を解除することができる(合意解除)。
他方,これらの用法とは別に,公法上の継続的な法律関係を解消する意味で〈解除〉という用語が用いられる。たとえば,国宝指定の解除(文化財保護法29条),差押えの解除(国税徴収法79条),地震警戒宣言の解除(大規模地震対策特別措置法9条)など。
→解約
執筆者:栗田 哲男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
契約当事者の一方が、有効成立している契約の効力をその一方的意思表示によって消滅させることを契約の解除、あるいは単に解除という。当事者の合意によっても解除できる(合意解除・解除契約)が、一般には解除権の行使に基づいて行われる。
[淡路剛久]
一方的意思表示によって契約を解消させうる権利(形成権)を解除権(広義の解除権)という。解除権には、あらかじめ契約によってそれを留保しておく約定解除権と、法律の規定によって生じる法定解除権がある。
[淡路剛久]
契約の当事者があらかじめ解除権の留保をしておいた場合に、この特約によって生ずる解除権で、法定解除権に対する。民法は一般的な規定を置いていないが、解約手付(民法557条)や買戻しの特約(同法579条)などはその例である。行使方法と効果は、特別の定めがない限り、法定解除権と同様に取り扱われる(同法540条、544条~548条)。
[淡路剛久]
法律の規定によって生ずる解除権である。
法定解除権には、契約の効力を遡及(そきゅう)的に消滅させる解除権(狭義の解除権――民法541条以下)と、そのような遡及的効力を生じない解除権とがある。後者の場合は、前者と区別して講学上、「告知」とよばれている(民法典での用語は「解除」と「解約の申入れ」とに区別されている)。
民法は、まず履行遅滞など債務不履行を理由とする解除権について規定し(541条~543条)、各契約について、特殊な解除権について詳しく規定を置いている(561条~568条、570条)。
実際上、大きな社会的機能を果たしている狭義の解除権(民法541条以下)は、次の場合に発生することが多い。
すなわち、債権者が履行遅滞に陥り、相当の期間を定めて履行の催告をしても、債務者の責に帰すべき事由によってその履行がない場合(民法541条)、それが定期行為の場合には催告が不要(同法542条)、および債務者の責に帰すべき事由による履行不能の場合(同法543条)などである。民法第541条以下の契約の解除(狭義)がなされた場合、さかのぼって解消してしまうから(解除の遡及効)、当事者は互いに相手方に対して原状回復の義務を負い(同法545条1項)、損害がある場合にはそれを賠償する義務を負う(同法545条3項)と規定している。
[淡路剛久]
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出典 みんなの生命保険アドバイザー保険基礎用語集について 情報
出典 自動車保険・医療保険のソニー損保損害保険用語集について 情報
…解除とともに,いったんは有効に成立した契約を事後的に消滅させること。賃貸借契約のような継続的な法律関係を内容とする契約において,契約の存続期間の定めがないときには,いつでも両当事者に,また契約の相手方に債務不履行その他一定の事由(解約原因)があるときには,もう一方の当事者に契約を解約する権限(解約権)が発生し,解約権者の解約の意思表示によって契約は将来に向かって解消される。…
…一般的には,何かの事情によって生じている現在の状態を,元の状態に回復することをいう。(1)民法上は,契約が解除された場合に当事者が負担すべき義務内容をさす(民法545条1項)。契約が解除されると,契約は最初から存在しなかったものとして扱われるので,契約締結後解除までの間に契約内容の全部または一部が履行されていたとしても,それらはいずれも法律上の理由を欠く結果となり,当事者は互いに元の状態に戻すべき義務を負うこととなる。…
※「解除」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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