生体情報(読み)せいたいじょうほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「生体情報」の意味・わかりやすい解説

生体情報
せいたいじょうほう

生体が発する種々の生理学的・解剖学的情報(たとえば心電、心音、X線吸収率など)から、生体を調節するために入力する情報を含めて生体情報という。こうした情報を計測し診断を行い、生体を調節し治療する方法は、医学、とくに生体医工学や医用画像工学の診断、治療、介護にとって、より高度で有効な手法である。しかし、生体情報は、単なる物理的、化学的な諸量の計測および制御量としての情報とは異なるため、系統的、分析的に処理しようとする場合には、以下のような困難さを伴う。

 その第一は、生体情報を獲得する対象が生命をもっているために、これに侵襲を加えて計測をすることが困難な点である。第二は、生体情報が本質的に非線形性をもち、ゆらぎやあいまいさなどを含んでいるために、外部の種々の条件をきちんと設定したうえでも、なおかつ結果にばらつきがみられる点である。生体情報のあいまいさやゆらぎは、生体独特の仕組みとして分析の対象となってもいる。第三には、生体情報が通常きわめて微弱であるという点である。計測の困難さについては、マイクロセンサーや分子レベルの計測装置発展が待たれる。より信号雑音比の高い装置では、対象が組織や細胞、細胞内の構造・機能の情報と進むにつれ、量子光学的な手法やバイオテクノロジー独特の手法が登場し始めている。第四には、体内で生じた生体情報を生きたまま得ようとする場合には、なんらかの形で外から間接的な計測をしなければならない点である。このために、本来の発生地点から生じた情報が途中の通信経路を通るにしたがってどのように変化するかを調べ、生体情報の発生地点の量を逆算して解かなければならないことも多い。この解析法は逆問題の解法として一つの研究領域となっており、この研究のなかからX線断層装置やMRI画像装置などの医用画像機器が生まれてきた。第五には、生体の情報は、多重に重なったフィードバックと内部環境の恒常性維持の制御系に組込まれているために、情報の分析が非常に困難であるという点である。この解析のなかからは生体機能のシミュレーションからその対象を分析し理解する手法が生まれた。第六には、生体情報は、膨大な遺伝情報の変異から生ずる幅広い個体差と、成育環境によって獲得された生体固有のリズムをもつため、無機的なものを対象にするのに比べ、はるかに困難であるという点である。さらに、人間を含む高等動物では、心理量による情報の変調が、生体情報計測のむずかしさとなっている。

 一方、生体に情報を与える場合、入力する情報のエネルギーが大きければ生体に害を与える危険性があり、エネルギーを小さく済ませるためには体内の必要部分に直接情報を入力しなければならない。従来は、各種の人工臓器や筋肉の機能的電気刺激のように、生体臓器の調節に体外の装置による体外からの間接的手法が採用されてきたが、マイクロテクノロジーの発達によって、生体の中へ直接の情報交流のチャンネルを置く方法が登場、情報のやりとりをシリコン素子によって行う各種の方法が登場した。神経インターフェースとよばれる各種の素子は、視覚や聴覚や一般の知覚および運動信号を生体に入力し、出力する系として開発が進められている。生体を遠隔から計測し制御する手法は、在宅医療・介護に本質的な技術支援を与え、見えない生体情報を見えるようにする人工現実感の技術とあいまって、大きく発展するといえよう。

[藤正 巖]

『日本エム・イー学会ME技術教育委員会監修『MEの基礎知識と安全管理』改訂第4版(2002・南江堂)』

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