安全管理(読み)あんぜんかんり(その他表記)occupational safety management

日本大百科全書(ニッポニカ) 「安全管理」の意味・わかりやすい解説

安全管理
あんぜんかんり
occupational safety management

一般に個々の企業が実施する労働災害防止対策の総体をいう。労働災害防止対策には、ほかに、国が実施すべきもの、業界団体などが実施すべきものがある。安全管理の内容は、設備の管理と作業の管理に大別される。設備に対しては、設計、設置、使用の各段階を通して一貫性のある安全管理が必要である。また作業の管理については、古くから三大実施事項とされている整理整頓(せいとん)、安全点検、正しい作業(安全作業基準)が、職場で一体のものとして統一的に実施されることが必要である。

 安全管理のための組織としては、事業場の最高責任者でもある総括安全衛生管理者のもとに安全管理者選任され、半数は労働者代表からなる安全委員会が組織される(労働安全衛生法17条)。そこで安全管理の課題、内容、実施方法、分担に関する安全管理計画が策定され、推進されることとなる。安全委員会に労働者代表を参加させる方法以外に、個々の労働者を文字どおり全員、安全管理の運動に動員する方策がとられ、小集団活動や提案制度、安全競争が熱心に行われているところもある。しかし、労務管理としての側面が強く出ているところでは、無災害競争のもとで労働災害が私傷病扱いされたり、災害の原因究明にあたって不注意論などの個人責任論が一面的に強調される、といった実態も少なからずある。

 なお、同じ労働安全衛生法に基づく概念として「衛生管理」がある。安全管理が主として労働災害防止対策の総体であるのにたいして、衛生管理は、労働者の健康の保持と増進を目的として実施される方策の総体をいい、健康管理、作業管理、環境管理、衛生教育などからなり、健康診断も含まれる。

[重田博正]

『長町三生著『安全管理の人間工学』(1995・海文堂出版)』『労働省安全衛生部安全課編『安全管理者の実務(第6版)』(2000・中央労働災害防止協会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「安全管理」の意味・わかりやすい解説

安全管理 (あんぜんかんり)
safety management

事業活動にともなう災害の予防と処置のため,企業が実施する体系的方策をいう。労働者の安全を確保することが第一の目的であるが,工場周辺の住宅や諸施設に被害を与えないことも重要な目的で,さらに結果的には企業の事業活動の安定・発展に寄与することになる。

 従業員の安全に関する法的措置は1802年イギリスの工場法制定に始まる。同法が実質的内容を備えた第5次改定(1833)以後ヨーロッパ各国が相次いで工場法を制定し,事業所内の危険予防施設・衛生設備の設置を定めた。アメリカでは,69年に労働災害データの収集と工場査察がマサチューセッツ州で始まり,1908年の労働者補償法により連邦職員に対する労働災害補償が定められた。11年ニュージャージー州法に始まる州レベルでの同種法律の制定は保険会社各社の関心をよび,12年アメリカ安全会議が開かれ,〈安全第一safety first〉という標語ができた。この動きは安全専一運動として日本に導入され(1913,足尾銅山),16年工場法の施行(公布は1911年),17年安全第一協会設立,18年災害防止展覧会開催・東京市安全週間実施,28年第1回全国安全週間の実施,32年全国産業安全大会の開催と全国的活動にまでなっていった。第2次大戦後,労働基準法(1947公布)の安全・衛生に関する条項は労働安全衛生法(1972公布)により独立・拡大した法律となり,充実した形となった。

 安全管理の内容としては,生産設備・機器の整備(設備管理),安全な作業・動作基準の設定,保護具の採用(作業・動作管理),整理点検,防災施設整備,避難救急体制整備(保守管理)に分かれる。具体的推進にあたっては,安全管理計画の立案,管理者の選任,安全点検基準の制定,点検評価と改善の継続的実施が行われる。また,管理体制の実効ある作動のために教育・訓練(企業内教育・訓練)が不可欠であり,事故発生後の原因調査・報告・記録は再発予防の基礎として安全管理活動の重要な部分を占める。
労働安全衛生
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「安全管理」の意味・わかりやすい解説

安全管理
あんぜんかんり
safety management

企業内の安全を維持し災害を未然に防止するための諸活動。単に作業能率や企業の損失防止の観点からのみならず,人道的観点からも重要である。手法としては,(1) 作業環境の整備,(2) 機械装置,用具の点検,(3) 生産方式の改善,(4) 保護用具の着用,(5) 安全教育の徹底などがある。安全管理は労働基準法や労働安全衛生法などによって規制され,工場内に安全管理者や安全担当者などがおかれて積極的に安全管理に取組むよう指導されている。

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