改訂新版 世界大百科事典 「産の忌」の意味・わかりやすい解説
産の忌 (さんのいみ)
出産を穢れ(けがれ)として忌む観念で,地方によってサンビ,アカビ,チブク,シラフジョウなど種々の呼び方がある。死の忌のクロフジョウ(黒不浄)に対して,血忌をいうのであるが,沿岸地方や産の忌の厳しい神社の付近などでは,死の忌より重いとしているところがある。産は穢なので,その夫も神事や神参りをしてはならなかった。庚申講などにも産があると遠慮して出ない。神社に近い家の産婦は,自分の家で産をしてはならず,出産のときは神社から離れた親類の家でしたという例もある。出産があるとその家の火は穢れると考えられ,ヒガカカル,ヒガワルイなどといって,その火を避けねばならなかった。母屋と別棟の産(うぶ)小屋にこもるのは,産婦のための煮炊きの火を別にする別火(べつか)の生活をするためであった。ゲヤあるいはナンドなど一つ屋根の下に産室を設ける場合でも,産婦の煮炊きの火と母屋の家族の火は別にする習わしがあった。産の忌は,最初の3日間がとくに厳しく,ミッカオボヤ(新潟県),アラズミッカ(宮城県)と呼び,8日間をアラビ(福岡県),2週間をアラユミ(富山県)などとよんでいるのは,この期間の忌が最もつよいと考えられていたことを示している。産の忌は一家のみならず部落全体に及ぶという例もあった。鹿児島県黒島などでは部落内に産があると,その日一日中部落全体が忌にこもり,野外の仕事に加わらなかった。また産のあった家の者は,7日間は屋外に出ることを慎み,家の入口は蒲葵(くば)の葉でおおって忌のしるしとした。産の忌は産婦に最も重く,ついで生児,父親,家族となっている。父親の忌明けは多く3~7日といわれ,生児や産婦の忌が明けることを,ウブアキとかヒアキ,イミアキなどという。生児の忌明けは30日前後とするところが多く,忌が明けて初宮参りが行われる。産婦の忌明けはところによってまちまちであるが,古くは75日にもわたる長い期間つづくものと考えられていた。それがしだいに短くなり1ヵ月あるいは21日となった。
執筆者:大藤 ゆき
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報