大学事典 「男女共同参画」の解説
男女共同参画
だんじょきょうどうさんかく
[定義]
男女共同参画は日本で用いられている政策用語である。本用語が最初に使われたのは1991年(平成3)の政府文書(総理府婦人問題企画推進本部「西暦2000年に向けての新国内行動計画(第一次改定)」)であり,男女共同参画社会基本法(日本)(1999年)では「男女が,社会の対等な構成員として,自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され,もって男女が等に政治的,経済的,社会的及び文化的利益を享受することができ,かつ,共に責任を担うべき社会」を男女共同参画社会として定義している(2条)。なお,本項目見出し欧訳は日本政府の公式欧訳に準じている。
第2次世界大戦前,日本社会において女性は,「家」制度のもとでさまざまな権利や社会的活動が制限され,良妻賢母であることが長く社会的に求められてきた。とくに高等教育から労働への移行では,高等教育を受ける女性自体が極めて少数であった上に,会社身分制の下で高等教育修了女性が大企業で「正社員」「準社員」として採用されることはなかった。就業しても長期就業継続は期待されず,待遇も高等教育修了男性より悪く,会社の正式な構成員とは見なされなかった。高等教育を終えても,結婚すれば「家庭に入る」,つまり労働市場から退出することが当たり前であった。
戦後,日本国憲法の制定およびそれに伴う各種法律の制定・改定により,法体系に女性の地位向上に関する基本原則が組み込まれた。大学・短期大学への女性の進学率(日本)は,1980年代前半には短期大学で2割,大学で1割を超えるまでに至ったが,公的領域と私的領域での性別役割分業意識(「男は仕事,女は家庭」)は依然として存在し,労働市場においても,保育士(当時は保母)など専門職を除けば,高等教育修了女性は補助職でしか雇用されない状況が続いた。
1986年(昭和61),雇用における性差別を規制する「男女雇用機会等法(日本)」(以下,等法)が施行された。同法で教育訓練,福利厚生,定年・退職・解雇における差別は禁止されたが,募集・採用,配置・昇進については企業の努力義務とされた。ただし,等法施行以後,「総合職と一般職」と「一般職」というコース別雇用管理を導入する企業が増え,非正規労働の拡大と相まって,一部のエリート女性とその他女性との分断を推し進めた。当時,「一般職」採用の大半は短大卒であり,典型的には大卒より若く入社し,社内では男性の補佐的役割を務め,結婚を機に退職するタイプの短期就業者であった。一方,「一般職」へ進む男性はほとんどいなかった。
現在,女性の進学率は大学だけで4割を超え(短大で約1割,専門学校で2割弱),労働力人口比率も全体として底上げされた。だが,結婚・出産による一時的な労働市場退出と子育てが一段落してからの労働市場への再参入を示す,年齢別労働力人口比率のM字形カーブは,底は浅くなって来てはいるが,諸外国と比較するとまだ深い。女性の管理職比率(日本)も1割程度にとどまっている。労働に限らず,男女平等を示す各種指数において,先進諸国の中で日本が遅れをとっている事実がいくつも指摘されている。
[大学におけるジェンダー]
戦後,学校系統図から女子の文字は消えたが,女性の高学歴化の波に乗り,女子高等教育の完成型として自らを位置づけ拡大したのが短期大学である。短大制度の「恒久化」(1964年)当時,経済学・商学分野を中心に4分の1が男子学生であったが,現在では1割を切る。分野は国文学や英文学などの教養的分野と,家庭で必要となる知識・技術を基盤とした分野(保育・学校教員,被服,調理・栄養,看護)とに大別されるが,補助職や「一般職」への需要を背景に拡大したのが前者である。女性の大学進学率の上昇や結婚後の継続就労が一般的となる中で,前者の需要は減り,後者が専門職養成として現在の短期大学を支える分野となっているが,現在でも給与の低さや昇進昇給の頭打ちなど,待遇に関する課題を抱えている。
大卒女性であっても,社会的に性別役割分業意識から解放されているわけではない。確かに学部女子学生比率は4割を超えている。だが,等法施行から15年後に実施した日本の学卒者調査でも,出産ではなく結婚を機に労働市場を退出する大卒女性が一定数存在することが確認されている。等法施行後,ジェンダーや女性学関連の授業を設ける大学が多くなった一方で,キャリア教育では職業キャリアに絞った取組みと展開が多く見られ,その中でワーク・ライフ・バランス(Work-Life Balance,以下WLB)や男女共同参画につながる要素がどれほど展開されているのかは定かではない。
雇用の場としての大学でも,近年,男女共同参画に関する取組みが各種進められている。とくに女性研究者支援では,職員と同様のWLB支援だけでなく,育児休業明け復職への人的・金銭的支援も充実してきている。大学単位の支援だけでなく,研究費にも特別枠を設けて支援する仕組みがある(たとえば文部科学省の科学研究費補助金)。現職の研究者に対してだけではなく,「リケジョ」(理系女子)増加のための各種取組みなど,男性が8割以上を占める研究職(とくに理系)での女性比率の増加にも力が注がれている。
[問われる大学の役割]
等法施行以後も,男女共同参画は政策的にも政治的にも常に重要事項として取り扱われ,さまざまな施策が展開されてきた。にもかかわらず,性別役割分業の二重負担問題(「男は仕事,女は仕事も家庭も」)は依然として解消されない社会的状況が続いている。一方で,男女共同参画が進むにつれ,育児や介護への男性の関与の増大,「一般職」への男性の応募,妻の職業キャリア優先に伴う夫の労働市場からの退出など,女性固有の問題であったものはそのまま男性に及びつつある。現在は「ダイバーシティ」という枠組みで,ジェンダー,人種,障がいなど,多様な背景を持った者が協働する議論がなされはじめている。これらに対して,将来を担う人材を養成する大学教育が,そしてそれを提供する場としての大学が,いかに対応していくかが注目される。
著者: 稲永由紀
参考文献: 野村正實『日本的雇用慣行―全体像構築の試み』ミネルヴァ書房,2007.
参考文献: 内閣府男女共同参画局:http://www. gender. go. jp/
参考文献: 吉本圭一,Rolf van der Velden,稲永由紀ほか『高等教育と職業に関する日蘭比較―高等教育卒業者調査の再分析』JIL調査研究報告書,日本労働研究機構,2003.
参考文献: 短期大学基準協会調査研究委員会編『短大卒業生の進路・キャリア形成と短大評価』調査研究報告書,短期大学基準協会,2005.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報