防衛機制(読み)ぼうえいきせい(英語表記)defense mechanism

  • ,Abwehrmechanismen
  • ,me´canisme de de´fense
  • defense mechanisms
  • ぼうえいきせい バウヱイ‥
  • ぼうえいきせい〔バウヱイ〕
  • 防衛機制 defence

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

適応機制ともいう。精神的安定を保つための無意識的な自我の働き。自己を防衛するため,心のなかの不安,恐怖,欲望衝動などを抑え,しずめる働きもさす。 19世紀末に S.フロイトによって提唱された。健常者の防衛機制は意識化されやすいが,病的状態が進行するにつれて意識化は困難になり,無意識的,不随意的,機械的反復の傾向が強くなる。したがって防衛は抵抗の形をとり,他者介入を困難にする。防衛機制には,抑圧転換隔離反動退行,やり直し,取入れなどがあるが,これはそのまま神経症の症状形成機制になる。

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世界大百科事典 第2版の解説

精神分析の用語人格の統一性を保持し,現実への適応を図るのは自我の役割であるが,これは容易な役割ではない。現実にはいろいろ困難な事態が起こるし,個人の人格は自我だけで構成されているのではなく,自我とともすれば対立する超自我エス(イド)を抱え込んでいる。超自我とエスは現実とかかわりをもっておらず,超自我は道徳的命令や禁止を押しつけてくるだけであるし,エスは快楽原則に従ってひたすら満足の快感を求めるだけである。

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大辞林 第三版の解説

不安・葛藤・フラストレーションなどから自己を守ろうとして働くさまざまな心の仕組み。投射・退行・抑圧・昇華・合理化など。適応機制。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

精神分析の中心概念の一つ。不安によって人格の統合性を維持することが困難な事態に直面したとき、自我egoはその崩壊を防ぐためにさまざまな努力を無意識のうちに行うが、このような自我の働きを防衛機制という。自我を脅かすものとしては、一方にはその個人を取り巻く外界の厳しい現実社会があり、他方には自分の内部のエスes(イドidともいう)や超自我super-egoがある。すなわち自我は、快感原則に従って衝動を一方的に満足させようとするエスや、道徳的な禁止を命ずる超自我などによっても脅かされる。自我は、こうした外的現実や内界のエスならびに超自我の三者間の葛藤(かっとう)による不安や苦痛や罪悪感などから自身を守り、人格の統一性を保持しようとするのである。以下、自我による防衛機制の主要なものを取り上げる。(1)抑圧repression 容認しがたい思考、観念、感情、衝動、記憶などを意識から排除し、無意識へ追いやる自我の働きをいう。たとえば「思い出せない」「わからない」という事態はこの機制による。防衛機制の基盤をなしているのが、この「抑圧」である。(2)反動形成reaction formation 抑圧している欲望や衝動と正反対の態度や行動をとること。たとえば、強い性的関心が極度の性的蔑視(べっし)や無関心の態度として現れている場合である。(3)投影(投射)projection 自分が他人に対してもっている認めがたい考えや感情を他人に移して(人のせいにして)、他人がそのような考えや感情をもっているとみなすこと。たとえば、自分のなかにある他者に対する憎悪感が、無意識のうちに他者に移され、彼が自分を憎んでいると思うことなど。(4)同一化・同一視identification これは、外界の対象(他者)と自己とを同一とみなす場合と、対象に属する諸性質や態度を自分のうちに取り入れて同一化する場合とがある。たとえば、子供が親に似てくるのは、親の特徴を自分のうちに取り入れるからである。(5)合理化rationalization 自分の行動の本当の動機を無意識のうちに隠し、ほかのもっともらしい理屈をつけて納得すること。たとえば、『イソップ物語』に登場するキツネがとろうとしてもどうしてもとれないブドウに対して、あれは酸っぱいブドウなのだと思い込むこと。(6)昇華sublimation 抑圧された衝動が社会的、文化的に価値ある活動に置き換えられること。たとえば、裸婦像や裸婦画はその芸術家の性衝動の昇華とみなされる。これは内的衝動に対する防衛機制であるばかりでなく、学問、芸術、文化、宗教などの創造的活動の基礎をなす心理機制でもある。(7)置換えdisplacement ある状況下で容認されがたい衝動や態度を、別の対象に向け換えて不安を解消しようとする機制。たとえば、父親に対する憎しみを職場の上司に向ける場合など。
 防衛機制にはこのほか退行、打ち消し(復元)、転換、隔離、摂取(取り入れ)、知性化、逃避、補償、代償、攻撃、固着などが指摘されている。防衛機制はその名称が示すように「防衛」という消極的な心理機制であって、積極的に合理的な方法で問題解決を図るものではない。それゆえに一種の自己欺瞞(ぎまん)的な問題処理の仕方である。しかし、人間はすべての問題を合理的に解決することは不可能なので、防衛機制を用いざるをえない。この点で防衛機制は人間にとって不可欠なものであるが、あくまで適切な範囲内で用いられるべきものであり、頻繁にこれが用いられると神経症的な症状を形成することになる。[久保田圭伍]
『小此木啓吾・馬場謙一編『フロイト精神分析入門』(1977・有斐閣新書) ▽A・フロイト著、黒丸正四郎・中野良平訳『自我と防衛機制』(1982・岩崎学術出版社) ▽S・フロイト著、懸田克躬訳『精神分析学入門』(2001・中央公論新社)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 (defense mechanism の訳語) 自分の依拠してきた心理的体制を守るために働く対応措置としての機能。個人が要求の不満足や不快な情況に当面したときに働く。不快な情況を見聞きしないようにしたり、他の行動によって補償したり、より高次の欲求に昇華したりする行動をいう。〔精神分析入門(1959)〕

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最新 心理学事典の解説

フロイトFreud,S.が19世紀末にその精神分析的病理学で使い始めた概念。自我は,内なるエスや外的な現実の要請,そして超自我の要請に同時にこたえねばならず,抑圧や昇華などの各種の心の動きによってそれを可能にしようする。これを防衛という。超自我は,幼児の同一化や両親などの権威者像と結びついて発達するもので,日常語で言う「良心」の役割を含んでいる。こうして防衛の問題とは,乳幼児の絶対的な依存から自立へ向かうプロセスで,外的な母親の庇護を失いながら自らの心身を自分の内側で抱えて,表裏の二重性の処理を身につけた生き方の問題であり,社会の表にかかわりながら裏を守る,つまり自我がその全体としての自分を適応的に「作る」方法の獲得という発達論的課題なのである。このメカニズムを精神分析では防衛機制とよび,その精神分析の構造論から言うなら,エス,超自我,現実などの間で「折り合い」をつけねばならない自我にとっては,症状やそして問題行動とは不愉快で不適切であるが,ある事情下ではやむをえない妥協,あるいは適応の失敗となる。アンナ・フロイトFreud,A.の著書『自我と防衛機制Ego and the mechanisms of defense』によって,外界から生じる危機に対する防衛概念が明らかとなった。

 その代表が抑圧repressionであり,裏のことを心の奥(心奥)にしまい込み,自分にも気づかれないように禁じてしまい,まさに,霊長類が動物であることを忘れてしまったような状態になる。また,置き換えdisplacementという,別ものに置き換えて処理するという重要なメカニズムもある。裏の問題が母親への攻撃性だというのに,自分の内外の別の問題,たとえば小さな身体症状や環境問題に置き換えて悩むという場合である。反動形成reaction-formationは「裏返し」であり,攻撃性を抑えて逆のていねいな態度を取るような場合である。合理化rationalizationは裏表の矛盾を理屈で説明し,妥協形成compromise-formationでは表と裏の妥協を図る。乖離dissociationとは,都合の悪い部分を意識から切り放すことをいい,これが極端になるとまったくの別人を作って分裂splittingさせる。投影projectionは持て余した部分を周囲にぶつけたり押しつけたりするものである。同一化identificationは,たとえば不安定な自分を,より上手にやっているだれかと同じに見立てて安定しようとする。否認denialとは,そこにありながら認めないという,かなり逃避の要素が強い機制である。相手に投影したものを押しつけて,相手と押しつけたものとを一緒に(同一化あるいは同一視)してしまう投影同一化projective identificationが,分裂とともにクライン学派が重視する原始的防衛機制であり,現代精神分析学では精神病や境界例の理解には欠かせないものとなっている。以上の諸項目は,心の動きの諸側面を分類したもので,もちろん重複がある。このような防衛を複雑に使って,葛藤を生かし,より社会的に受容される何かを作るという,価値の高い昇華sublimationという創造的な防衛があり,それが新しいものを作り出すこともある。逆に防衛が不器用で,抱える問題の量や質に圧倒され,防衛機能が破綻して表裏の二重性の処理や「葛藤を生きる」ことに失敗し消耗する神経症や精神病状態に陥ることになる。そして,神経症の分析的治療とはそのことを明らかにして,洞察し,より適切な成熟した防衛機制を発見する覆いを取る方法uncovering methodなのであるが,内外を混同する精神病者の治療ではその病理を言語的に分析して解釈する方法を取るか,覆いをする(あるいは覆いを作る)方法とするかについては学派や論者によって意見が異なる。 →精神分析
〔北山 修〕

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世界大百科事典内の防衛機制の言及

【神経症】より


[心理機制]
 われわれは日常,自己の本能的あるいは社会的な欲求をつねに満足させることはできない。しかし欲求不満や葛藤があっても,それを無意識的に適切に処理することにより(防衛機制),心理的な破綻(はたん)をすることがない。神経症的な性格の人は,欲求不満や葛藤状況への抵抗が弱く,破綻に面して不安を生じる。…

【精神分析】より

…したがって煎じつめれば神経症的不安といえども現実不安である。自我は内外の危険を回避するためにさまざまな防衛機制(抑圧,否認,隔離,反動形成,打消し,象徴化,同一化,投影,自我の分裂)を働かせる。現代の一般心理学の中に防衛機制論はあまねく採用されているが,その発見者はフロイトである。…

【適応】より

…欲求は必ずしも満足されるとは限らず,欲求不満(フラストレーションfrustration)のため緊張の高まることもあるし,相反する二つの欲求,つまり葛藤のため不安の生ずることもある。この緊張や不安解消のため,防衛機制または適応機制と呼ばれる無意識的な心理機制が働くが,神経症はこの緊張や不安の処理が不適切なために発症すると考えられる。外的適応または内的適応がうまくいかない場合を適応障害または不適応と呼び,それには一過性の場合と持続的な場合,環境要因の強い場合と人格要因の強い場合とがある。…

【投射】より

…心理学,精神医学の用語。無意識の作用による自我の防衛機制の一つ。投影ともいう。…

※「防衛機制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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