空から来攻する敵を撃破して敵の攻撃目標となっている対象を防護するとともに来攻企図を放棄あるいは挫折させる行動,または単に来攻する敵からその攻撃目標となっている対象を防護することをいう。防空には敵を要撃し妨害する積極防空と敵の攻撃効果を局限する消極防空があり,以下おもなケースについて述べる。
国土周辺にレーダー網を重畳構成し,かつ洋上に早期警戒機を配置するなどして早期警戒を行う。航空機を発見すると自動警戒管制組織(日本ではBADGE(バツジ),アメリカではNADGE(ナツジ))で敵機を確認し,その管制により遠距離全域にわたり要撃機や長距離地対空ミサイル,次いで重要目標防護のため近距離地対空ミサイルなどにより要撃する。アメリカ,カナダは連合防空司令部NORAD(ノーラツド)を設置し,大陸北縁13のレーダーサイトからなるDEWラインを中核とし大陸中部,アラスカのレーダー網などで早期警戒網を構成してきた。
1950年代から60年代にかけて,弾道ミサイル迎撃ミサイル(ABM)が米ソ両国で開発されたが,アメリカは有効性がないとの理由で運用を停止,ソ連がモスクワ周辺に配備していたのみであり,防空手段は耐弾施設へ収容するなどの消極防空に限られていた。このため早期に攻撃を発見し,あるいは攻撃を受けても戦略ミサイルが破壊されないようにし,報復攻撃力を保持することによって,攻撃されにくくする核抑止が重視されてきた。たとえばアメリカはソ連を囲むように配置された弾道ミサイル早期警戒システムBMEWS(ベミユース)を中核とし,ミサイルが発射された時点でこれを探知する警戒衛星や各種レーダー・システムによって構成された警戒監視システムをもっている。70年代後半より,レーザー兵器,粒子ビーム兵器など新しい兵器の登場により,弾道ミサイルを迎撃する可能性が生まれた。ソ連はこの時期粒子ビーム兵器の実験を開始したと伝えられ,アメリカは83年,レーザー兵器,粒子ビーム兵器,ABMなどにより弾道ミサイルを宇宙空間で破壊する戦略防衛構想を発表,84年,弾道ミサイルをABMにより宇宙で破壊する実験に成功した。
艦船の対空・対艦レーダー,早期警戒機,ESM(敵の発するレーダー電波の探知・分析)などにより警戒網を構成する。来攻航空機に対し,艦載要撃機,艦対空ミサイル,次いで各艦の短距離艦対空ミサイル,対空銃砲などにより要撃する。空対艦ミサイル,艦対艦ミサイルに対する要撃は困難なため,発射される前に母機・母艦を攻撃するようにする。発射された後は艦対空ミサイルIWS(レーダー連接の自動機銃)など対空火器による射撃などで対艦ミサイルを直接要撃するか,ジャミングなどにより対艦ミサイルの誘導を妨害し,あるいはおとり(デコイ),チャフ,発煙弾により偽の目標に誘導するなどで攻撃を回避する(電子戦)。なお,空対地ミサイルに対する要撃もほぼ同様である。ミサイル要撃のための新兵器研究は前述の通りである。
国土防空網と連係し,レーダー,対空監視哨,偵察機などにより航空情報網を構成する。来攻航空機に対し,要撃機,長距離地対空ミサイルにより要撃し,近接するに伴い近距離地対空ミサイルや対空火器など,次いであらゆる火器で対空射撃を行う。また戦闘機などにより重要目標の上空援護を行う。
空からの敵の攻撃効果を局限するため行うあらゆる手段(民間防衛を含む)をいい,おもなものは次の通りである。(1)堅固化 掩体(えんたい)(航空機や指令所などを攻撃から守る施設),退避壕などにより被害を受けにくくする。(2)分散化 分散配置,位置移動などにより1度に受ける被害を限定する。疎開。(3)秘匿性 隠ぺい,偽装,灯火管制などにより攻撃されにくくする。(4)回復性 予備・補備の施設・器材の準備,補修対策,物資備蓄などにより攻撃を受けても早く回復できるようにする。
→軍事衛星 →ミサイル
執筆者:植弘 親孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
航空機、ミサイル、その他の飛行物体による空からの攻撃に対し、防衛・防御を行うこと。防空は、その手段によって「積極的防空」と「消極的防空」に分けられる。積極的防空とは、友軍の部隊や施設に対する、敵の航空脅威の探知・識別・迎撃・撃破を行うもので、戦闘機や対空ミサイルはもちろん、警戒レーダー、迎撃管制などの防空システムにより構築されている。他方消極的防空は、計画システムの構築、攻撃を受けるであろう目標の分散、迷彩化、抗站化掩体(こうたんかえんたい)などの建設によって、敵の攻撃効果を減殺させる手段のことである。消火活動や救難活動も、消極的防空に含まれる。
防空活動は、第一次世界大戦で飛行船や航空機が軍事作戦に使われると同時に、積極的に行われてきた。望遠鏡や聴音機、サーチライトなどを使っての発見と識別、そして高射砲などによる攻撃で対処したり、阻害気球などを使って侵入を防いだ。さらに機銃を装備した戦闘機がつくられ、空中での戦闘により敵を撃墜・排除するようになった。第二次大戦中には、より遠くの目標を発見できるレーダーが実用化され、防空指揮もレーダーで行われるようになった。
第二次大戦後は、電子技術の発達によりレーダーや誘導兵器の高性能化、さらにはコンピュータの導入により、今日では警戒管制組織の高機能化と自動化が実現している。要撃戦闘機も、誘導式空対空ミサイルを装備するようになり、さらに搭載レーダーの能力も高まって、全天候下での完全な要撃戦闘が可能になった。地上の対空火器も、レーダーと連動する対空機関砲や対空ミサイルが、著しい進歩を遂げている。また、警戒レーダーを搭載した早期警戒機を空中に配備するとともに、対空ミサイルの高性能化によって、巡航ミサイルのような小型・高速・低空飛行目標に対しても、対処能力を得ている。残る問題は弾道ミサイルからの防空で、対空ミサイルの活用が考えられているがまだ解決しなくてはならない問題も多く、レーザーによる遠距離要撃などの手法が研究されている。
戦闘機で平時から行われている積極的防空の一つが、緊急発進待機で、不明目標の接近に対してスクランブル発進をかけ、領空侵犯などを未然に防いでいる。また、敵の来襲が確実であったり、特定の目標の防護、掩護(えんご)しにくい重要目標がある場合などには、戦闘空中哨戒(しょうかい)とよぶ、空中での警戒待機も行われる。
[青木謙知]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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