疫病神の一種で,疱瘡をもたらすと信じられた神。疱瘡はかつて最も恐れられた疫病の一つで,各地の神社の境内や辻などには厄神や疱瘡神の石の小祠がまつられている。疱瘡は一度経験すれば再びかからないため通過儀礼の一種とみなされ,なんとか軽くすむように疱瘡神を丁重にまつり,治りかけたら神を送り出すという風習が広く見られた。明治になって種痘が普及した後も,疱瘡神送りの風習は行われた。とくに,種痘後の1週間目や12日目には盛大な宴を催したり,桟俵(さんだわら)に赤い御幣を立てて疱瘡神にみなし,これに赤飯やだんごを供えて村境や四辻に置いてきたり,桟俵に笹をつけたものを疱瘡神として子どもの頭にのせ〈疱瘡の神さんご苦労さんでした〉といって湯をふりかける祓(はらい)の呪法が各地で行われた。また疱瘡神を海のかなたの異界から来訪する神と信じていた所もあり,村境のほか川や海に船にのせて送りかえす風習もある。疱瘡神をまつる風習自体は,江戸時代に成立したもので比較的新しい。橋本伯寿《断毒論》には〈痘神を祭る事は,古断えてなき事なり,(中略)神を尊み祭るならば,此災をのがれやする,軽くやうくると,おもふ俗情より起りし事にて,必ず近年の俗習なるべし〉とある。疱瘡神はやたらに遊幸して,人とくに小児にとりつく恐ろしい神とされていたが,《甲子夜話》には,疱瘡には神があって〈少童(わかし)好女(おなご)老嫗(うば)数種あり,此中少童好女来ることあれば其やまひかろし,嫗来れば痘至て重し〉とあり,このため佐賀藩領の村々ではあらかじめ家ごとに竹のつえに小さな足半(あしなか)をつけてすでに爺夫(じいどの)が来ている印とし,老嫗の入って来るのを防いだという。
疱瘡がはやると村に人を入れず,患者を隔離したり家の周囲に注連(しめ)をはった。また,家の戸口に護符や履物をつるして疱瘡神の侵入を防いだほか,疱瘡囃子(ほうそうばやし)や疱瘡勧進(ほうそうかんじん)などといって村の主婦たちが夜集まって村中を鼓をたたきながらはやして歩いたり,変装して隣村に米や酒を勧進に行きそれで疱瘡だんごを作って村中でたべて疱瘡神を村外に送り出した。疱瘡神はこうした印象からかはで好きで踊が好きだが怒りっぽい神だともいわれ,疱瘡神をまつっている間はにおいの強いものや魚,肉類は神が嫌うので食べないともいう。
→厄病神
執筆者:飯島 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…痘瘡に関する記述はほとんどの医書にみられ,とくに小児の痘瘡に詳しい。いっぽう痘瘡の病態がきわめて激烈で奇異なところから,〈痘瘡に鬼神あり〉とする信仰が広くゆきわたり,とくに江戸時代になると痘瘡の神として〈疱瘡神〉をまつる風習が広がり,疱瘡神をまつった小祠がわずかに残っている。さらに痘瘡にかかると,疫神をはらうための〈疱瘡祭〉を行う風習があり,患家に集まって贈物を交換したり,食物を分け合う行事が行われた。…
…疫病や災厄をもたらすという神。行疫神,疫病神,疱瘡神なども同種の神である。疫病(エヤミ,トキノケと称した)などの災厄は古くは神のたたりや不業の死をとげた者の怨霊や御霊(ごりよう)のたたりと観念され,厄病神も御霊の一つの発現様式とみられていた。…
※「疱瘡神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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