日本大百科全書(ニッポニカ) 「発禁本」の意味・わかりやすい解説
発禁本
はっきんぼん
公権力によって発売・頒布禁止の処分を受けた本の略称。1887年(明治20)の改正出版条例第16条によって規定された。江戸期にも出版物の発売・頒布の禁止はあったが、出版法(1893)以降厳しくなった。第二次世界大戦前は事前検閲があり、発売禁止処分を受けた本は政治的なものや「風俗壊乱」を口実に文芸作品など数多い。敗戦によってGHQ(連合国最高司令部)のプレス・コードで出版法は効力を失う。また日本国憲法により出版の自由は保障されたが、刑法第175条、関税定率法などによって法的な規制はある。したがって戦後は、発売後に猥褻(わいせつ)文書として摘発押収された本はあるが、発禁本というものはない。ただ長い間の習慣的呼称として発禁本といわれる。戦後の摘発第1号は『猟奇』誌第2号(1946)。そのほか『チャタレイ夫人の恋人』(1950)、『(続)悪徳の栄え』(1960)などがある。
[清田義昭]
『城市郎著『発禁本百年』(1969・桃源社)』