はっけっきゅうげんしょう‐しょうハクケッキウゲンセウシャウ【白血球減少症】
- 〘 名詞 〙 末梢血液白血球数が立方ミリメートルあたり四〇〇〇以下に減少した状態。各種疾患に際してみられるほか、放射線、制癌剤などの影響によって発生する。
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白血球減少症(総論(白血球系疾患))
(1)白血球減少症
末梢血白血球数の正常値は3500~9000/μLに広く分布するが,白血球減少症(leukopenia)は白血球数3000/μL以下と定義される.好中球およびリンパ球減少に分けられるが,好酸球,好塩基球,単球の単独減少が臨床的に問題になることは少ない.
a.好中球減少症(neutropenia)
概念
末梢血好中球数1500/μL以下の場合をいう.好中球数が1000/μL以下になると感染症を合併しやすく,特に500/μL以下では重症感染症を合併しやすいので無顆粒球症(agranulocytosis)という.さらに,100/μL以下に減少すれば重症感染症は必発である.
病態生理
好中球は骨髄で毎日1011個以上産生され成熟した後,末梢血に放出され約10時間で消失する.骨髄では幹細胞相といわれる多能性幹細胞から顆粒球系前駆細胞を経て,骨髄芽球から前骨髄球,骨髄球までは分裂・増殖を3~4回繰り返しながら次の細胞へと分化していく.後骨髄球以降は分化相の細胞となり,さらに成熟すると貪食能,遊走能,走化能などの機能を有する細胞となる.骨髄球までは活発に増殖し分裂しているが,それ以降の好中球は分裂を終了し,成熟段階に入っており,数日間骨髄にとどまった後に(貯蔵プール),末梢血に流出し血管壁に滞留する辺縁プール(marginal neutrophil pool)と血流に乗って移動する循環プール(circulating neutrophil pool)を形成する(図14-10-1).骨髄の貯蔵プールから血中に流入する成熟好中球は,循環プールと辺縁プールにほぼ均等に分布し,辺縁プールを通過して組織に移行する.
ステロイドホルモンによる白血球数増加は貯蔵プールから循環プールへの動員が主たるもので,炎症部位への動員は低下しており,白血球数は増加しても感染に罹患しやすい.
好中球減少症の発症機序は,①産生の低下(造血幹細胞障害による血液疾患:再生不良性貧血など,骨髄での異常細胞増加による造血抑制:急性白血病など,薬剤や放射線による造血幹細胞障害,造血幹細胞へのウイルス感染,先天性疾患など),②無効造血(骨髄異形成症候群,巨赤芽球性貧血など),③消費や崩壊の亢進(敗血症などの重症感染症による消費,自己免疫性疾患など),④分布の異常(肝硬変やBanti症候群などの脾機能亢進症)に分類される(表14-10-1).しかしながら,自己免疫性好中球減少症のように好中球の崩壊が亢進するが,好中球系前駆細胞が障害されることもあり,複合的な要因を示すこともある.また,好中球減少症の原因や病態が不明な場合も多い.
1)薬剤起因性好中球減少症:
好中球減少の原因として最も頻度が高く,日常臨床でしばしば経験する.原因としては抗癌薬のように常用量の薬剤濃度で骨髄中の前駆細胞を直接障害する中毒性障害機序で発症する場合と,成熟好中球あるいは顆粒球性前駆細胞を障害する抗体による免疫性障害機序で発症する場合がある(表14-10-2).抗癌薬やフェノチアジン系誘導体は中毒性障害機序,アミノピリンやサルファ剤は免疫性障害機序と決まっている場合もあるが,実際には明確な機序が明らかでない場合も多い.また,抗甲状腺薬は両者の機序によることが知られている.治療方針は,好中球減少の原因が薬剤であることを早期発見し,原因薬剤を速やかに中止することである.
a)中毒性障害機序による好中球減少症:薬剤の用量依存性に発症する.顆粒球系前駆細胞CFU-GMが薬剤によって抑制されることによる好中球の産生障害である.通常,顆粒球系前駆細胞のみならず赤芽球系および巨核球系前駆細胞にも障害を与えることが多い.原因薬剤の中止により,通常,顆粒球産生は回復する.
b)免疫性障害機序による好中球減少症:免疫学的な好中球減少の機序は多様である.抗体により免疫学的に成熟好中球が障害される際にはCFU-GMは保たれるが,好中球の崩壊が亢進する.また,CFU-GMが障害される際には好中球の産生が低下する.抗体による免疫学的な好中球崩壊の機序としては,①自己抗体型機序:薬剤により修飾された好中球表面蛋白が抗原となり,抗好中球抗体が産生される.②免疫複合体型:薬剤に対する抗体が産生され,抗原・抗体複合体が好中球を障害する.③ハプテン機序:薬剤が好中球に共有結合で強固に結合し,抗体が薬剤に結合する際に好中球を障害する.ペニシリンやセフェム系抗生物質による無顆粒球症はこのタイプの機序で発症することが知られている.
2)先天性好中球減少症:
a)Kostmann症候群:遺伝形式は常染色体劣性遺伝であり,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体遺伝子に異常を認める症例が報告されている.この場合,分化シグナルドメインの異常により好中球の分化能が失われたことが好中球減少につながると考えられている.
b)周期性好中球減少症(cyclic neutropenia):約3週間周期で好中球減少が出現し,好中球エラスターゼ遺伝子(ELA2)の変異が認められている.この遺伝子異常は重症遺伝性好中球減少症でも認められる.遺伝形式は常染色体優性遺伝である.
鑑別診断 (図14-10-2)
病歴や臨床経過より先天性か後天性かを区別する.後天性の場合,薬剤起因性好中球減少症か再生不良性貧血,骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS),急性白血病などの造血器疾患であるか区別する.原因と考えられる薬剤の使用歴などの臨床的な情報とともに骨髄穿刺,生検検査で容易に診断される.骨髄所見において顆粒球系のみの低形成であれば薬剤起因性好中球減少症が考えられる.複数の薬剤が使用されている場合は,原因となる薬剤の特定が難しいこともままあるが,疑わしい薬剤は直ちに中止する.3血球系統が低形成であれば再生不良性貧血,芽球が20%以上に増加していれば急性白血病,20%未満の芽球増加とともに血球形態異常を認めればMDSを考える.
治療
原因に即した治療を行う.白血球数が3000~4000/μLで,白血球分画に異常なく,ほかの血球成分の異常もなく,かつ原因が明らかでない慢性に経過する白血球減少症は外来で注意深く経過観察する.好中球減少の際は,原因の如何にかかわらず感染症に対する予防を含めた対策が必須である.
b.発熱性好中球減少症(febrile neutropenia:FN)
概念
好中球数が500/μL未満,あるいは1000/μL未満で近日中に500/μL未満に減少する可能性がある状態で,1回の腋窩温37.5℃以上(口腔内温38℃以上)の発熱を生じ,薬剤熱,腫瘍熱,膠原病/アレルギーなどの発熱の原因を除外できる場合をいう.造血器腫瘍に対する化学療法を施行する際にはしばしば経験する.
治療
発熱以外に症状に乏しく,急速に重篤な敗血症などの致命的事態になる可能性があるので,以下のように迅速にかつ慎重に対応する.①基礎疾患の確定診断に努める.②バイタルサインのチェックを行い,血圧低下/ショック状態に対しては昇圧薬の使用やvolume expansionをはかる.③血液,尿,咽頭ぬぐい液,痰などの各種培養を採取し,起因菌の同定に努める.④培養結果を待たないで,直ちに経験的に広域スペクトラム抗菌薬の投与を開始する(empiric therapy).抗菌治療としてはアミノ配糖体系抗菌薬(ゲンタマイシン,トブラマイシン,アミカシン)と合成ペニシリン(ピペラシリン)または第3世代セフェム系抗生物質を用いる.⑤非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)投与は極力控える.⑥抗菌薬は培養結果で調節する.3~4日しても解熱しない場合は,注意深く再評価する.感染の潜在部位(副鼻腔,口腔内,歯肉,肛門周囲,体腔内など)を評価し,各種培養を繰り返す.これらをもとに抗菌薬の変更,抗真菌薬の投与を検討する.また,G-CSF製剤を使用する(急性骨髄性白血病の際は慎重に使用する).造血幹細胞移植の際の重症感染症で抗菌薬を投与しても発熱が遷延するような高度の好中球減少症では顆粒球輸血が予後を改善することがある.
c.リンパ球減少症(lymphocytopenia)
概念
末梢血リンパ球数が1500/μL以下になった場合をリンパ球減少症とよぶ.
病態生理
末梢血リンパ球の80%はT細胞であり,リンパ球減少はおもにT細胞(特にCD4+T細胞)の減少による.原因としては,①産生低下,②体内での分布異常,③体外への喪失や破壊などが考えられる.
鑑別診断
感染症,悪性腫瘍,膠原病,Hodgkinリンパ腫,先天性免疫不全症,後天性免疫不全症(AIDS),放射線照射,薬剤投与(抗癌薬,免疫抑制薬,副腎皮質ステロイド薬など)でリンパ球減少が認められる.細菌感染症やストレス,副腎皮質ステロイド薬投与では体内でのリンパ球の分布異常がみられる.結核による肉芽腫形成でもリンパ球減少が認められる.麻疹,風疹,ポリオ,HIV感染などではリンパ球破壊によりリンパ球減少を認める.HIVはT細胞(CD4+細胞)に感染する.悪性リンパ腫のなかでもHodgkinリンパ腫ではCD4+T細胞減少によるリンパ球減少を認める.[木崎昌弘]
■文献
Bagby GC Jr: Leukopenia and leukocytosis. In: Cecil Medicine (Goldman L, Ausiello D eds), pp1252-1264, Saunders Elsevier, Philadelphia, 2008.
Watts RG: Nuetropenia. In: Wintrobe’s Clinical Hematology (Greer JP, Foerster J, et al eds), pp1527-1547, 12th ed, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2009.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
家庭医学館
「白血球減少症」の解説
はっけっきゅうげんしょうしょうこうちゅうきゅうげんしょうしょうむかりゅうきゅうしょう【白血球減少症(好中球減少症/無顆粒球症) Leukopenia】
[どんな病気か]
健康な人の血液中に含まれる白血球は、血液1mm3あたり4000~9000個で、これが1mm3あたり3000個以下になった状態を、白血球減少症といいます。
白血球には好中球(こうちゅうきゅう)、好酸球(こうさんきゅう)、好塩基球(こうえんききゅう)、単球(たんきゅう)、リンパ球などの種類があり、好中球、好酸球、好塩基球の3つを合わせて顆粒球(かりゅうきゅう)とも呼ばれます。
減少した白血球の種類によって好中球減少症、顆粒球減少症、無顆粒球症などとも呼ばれます。
顆粒球減少症(かりゅうきゅうげんしょうしょう)には、好中球、好酸球、好塩基球などの減少症がありますが、白血球の45~65%は好中球なので、好中球減少は顆粒球減少とほとんど同じ意味で使われています。
とくに、血球のなかで顆粒球(好中球)がほとんどなくなってしまい、重い感染症にかかることの多い病気を、無顆粒球症(むかりゅうきゅうしょう)と呼んでいます。
ここでは、白血球減少症の大部分を占める好中球減少症と、無顆粒球症について、解説します。
■好中球減少症(こうちゅうきゅうげんしょうしょう)
血液中の好中球の数が1mm3あたり1500個以下になった状態をいいます。
好中球は感染を防ぐ機能に重要な役割をになっているので、好中球が減ってくると、とくに細菌や真菌(しんきん)に感染しやすくなります。
したがって、感染症にかかり、ふつうの治療を受けたにもかかわらず発熱などの症状がとれないときは、好中球減少症を疑ってみる必要があります。
原因としてもっとも多いのは、薬剤の使用が引き金になるものです。
抗菌薬や抗生物質、消炎鎮痛薬、抗けいれん薬、抗甲状腺薬(こうこうじょうせんやく)、経口糖尿病薬、精神安定剤、各種の抗がん剤、抗ヒスタミン薬、抗不整脈薬など、さまざまな薬剤が原因となります。
そのほかにも、骨髄(こつずい)の造血(ぞうけつ)障害(再生不良性貧血や白血病、放射線照射など)、脾臓(ひぞう)の機能亢進(こうしん)による破壊(肝硬変(かんこうへん)など)、好中球の発育不良・不全(骨髄異形成症候群など)、感染症(ウイルスや細菌)、免疫(めんえき)の病気(膠原病(こうげんびょう)、自己免疫性好中球減少症など)、遺伝(周期性好中球減少症、家族性慢性好中球減少症など)など、さまざまな原因があります。
これらの原因をまとめると、好中球の産生がうまくいかない、好中球の破壊が異常に進行する、好中球の利用が激しく、産生が追いつかない、ということがいえます。
好中球の減少のほかに、赤血球(せっけっきゅう)の減少(貧血)、血小板(けっしょうばん)の減少(出血)などをともなうことも少なくありません。
好中球の減少が進んで無顆粒球症になると、敗血症(はいけつしょう)など、生命にかかわる重い感染症をおこすことがありますので、その予防がたいせつです。
原因となる可能性のある薬剤の使用は、すぐに中止します。
■無顆粒球症(むかりゅうきゅうしょう)
顆粒球がほとんどなくなってしまっている状態を、無顆粒球症といいます。
顆粒球の減少がおこるメカニズムには、2種類があります。
1つは、薬剤の中毒作用によって、骨髄にある顆粒球のもとになる細胞が傷害されてしまう場合です。
もう1つは、おもに、薬剤を異物とみる好中球が薬剤と結合し、さらに、その結合したものに対する抗体(こうたい)がつくられ、それが好中球を呼び集めて破壊することによるものです。
無顆粒球症では、薬剤の使用といった、きっかけになることがあってから急に(1~2日間)、全身のだるさなど、まえぶれとなる症状が現われ、その後に震えをともなう高熱、ひどいのどの痛みがおこってきます。
重症になると、肺炎、敗血症などをおこし、危険な状態になります。
静脈から採血して検査すると、顆粒球・好中球が著しく減少しており、ときにはまったく検出できないこともあります。
針を刺して骨髄の組織を少量とり、顕微鏡で調べてみると、顆粒球になる前の細胞(骨髄芽球(こつずいがきゅう)、前骨髄球(ぜんこつずいきゅう))が増えているのがみられます。
治療は、原因となった薬剤、放射線照射などをすぐに中止します。
感染が原因となっている場合には、その感染症の治療を行ないますが、薬剤の使用は、慎重に行なう必要があります。
細菌などの感染を防ぎ、体力をつけるために、入院して治療するのが原則となります。
肺炎や敗血症など、重症の感染症をおこしてしまった場合は、慎重に、強力な抗生物質療法を行ないます。
出典 小学館家庭医学館について 情報
白血球減少症
はっけっきゅうげんしょうしょう
循環している血液(末梢(まっしょう)血液)中の白血球数は正常の場合1立方ミリメートル中に平均6600であるが、これが4000以下に減少した状態をいう。白血球のなかでもっとも多くて変動しやすいのは、好中球、好酸球、好塩基球の顆粒(かりゅう)球であり、白血球が減少している場合のほとんどは顆粒球減少によるものである。リンパ球では1立方ミリメートル中1000以下に減少した場合をリンパ球減少症としているが、他の白血球と異なって通常ではよく保たれている。しかし、リンパ組織が悪性リンパ腫(しゅ)などで広範に破壊されると初めて減少する。なお、白血球が減少するのは腸チフス、インフルエンザなどの感染症時にもみられ、診断上の参考になる。
[伊藤健次郎]
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「白血球減少症」の意味・わかりやすい解説
白血球減少症【はっけっきゅうげんしょうしょう】
白血球の数が正常な動揺値より病的に減少する症状。普通,血液1mm3中3500に満たないもの。再生不良性貧血,放射線障害,ベンゼン中毒,脾性疾患など,また感染症としては腸チフス,はしか,風疹,インフルエンザなどにみられる。
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
白血球減少症
はっけっきゅうげんしょうしょう
leukopenia
血流中の白血球が減少して,1mm3中 5000以下になっている状態をいう。腸チフス,パラチフス,麻疹,インフルエンザなどの急性感染症の初期に認められる。また,多くの肝脾疾患,悪性貧血,マラリア,カラアザールでもしばしば起り,顆粒球減少症や再生不良性貧血では常にこれを伴い,原爆症にも多い。多くは好中球の減少が主体で,リンパ球は相対的に増加することが多い。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報