無顆粒球症

内科学 第10版 「無顆粒球症」の解説

無顆粒球症(白血球系疾患)

定義・概念
 顆粒球(好中球)数が激減している状態を無顆粒球症とよぶ.好中球数500/μL以下の状態を指し,しばしば好中球は末梢血からほとんど消失している.広義にはさまざまな原因による高度の好中球減少症を指すが,一般には,薬剤に対する特異体質のために生じる高度の急性好中球減少症を指し,薬剤起因性好中球減少症と同義である.発症頻度は100万人に1~5人/年である.
病態生理
 薬剤による好中球減少症には2つのタイプ,すなわち,①免疫反応によって生じるタイプと,②薬剤によって蛋白質合成細胞分裂が障害されるタイプ(中毒性)がある.
 免疫反応によって生じるタイプのなかでペニシリンプロピルチオウラシル,金製剤などはこれらの薬剤またはその代謝産物ハプテンとして働き,薬剤存在下に抗好中球抗体が産生される.好中球および好中球系前駆細胞の破壊には薬剤が同時に存在することが必要であるが,薬剤が同時に存在しなくても破壊が生じる場合もある.発症はしばしば急激であり,服薬量とは無関係である.服薬後数日から数週間で発症し,多くは3カ月以内に発症する.男性より女性,若年者より高齢者に発症しやすく,アレルギーの既往のある人に発症しやすい.また,リツキシマブ投与によりしばしば高度の遅発性好中球減少症が生じる.
 一方,中毒性のタイプは服薬量や服薬期間に依存しており,数週間以上の服薬後に発症する.クロルプロマジン,カルバマゼピン,カプトプリルなどがこのタイプに属する.高用量の薬剤の服用や腎機能障害などにより血中濃度が高くなる患者に発症しやすい.
臨床症状
 薬剤には副作用があることを念頭において検査をしていれば,無症状のときに好中球減少を発見することができる.易感染性は好中球の絶対数と好中球減少の期間に依存する.臨床所見は急性細菌感染症による全身症状と感染部位の局所症状からなる.発熱,咽頭痛,頭痛,筋肉痛などがあり,しばしばすでに肺炎や敗血症を発症している.また,口腔,咽頭粘膜,皮膚,外陰部,肛門周囲などの強い炎症や壊死性潰瘍がみられる.
検査成績
 末梢血液検査では,好中球数が激減(500/μL以下)しており,しばしばほとんど消失している.軽度のリンパ球減少を認めることもある.赤血球および血小板減少はあっても軽度である.骨髄像は検査時期により異なるが,発症時には好中球系細胞が激減し,赤芽球系および巨核球系細胞は比較的よく保たれている.好中球系細胞も成熟好中球のみが激減している場合から未熟な好中球系細胞も同時に激減している場合までさまざまである.このような差異は発症の原因と検査時期の違いにより生じる.抗体が主として成熟好中球を傷害する場合は成熟好中球の激減がみられる.一方,抗体が好中球系前駆細胞も傷害する場合や中毒性の場合は未熟な好中球系細胞も減少する.薬剤の服用を中止してすでに骨髄の回復が始まっているときは,未熟な好中球系細胞が同調して増殖している.
診断
 特徴的な臨床症状および末梢血液と骨髄の検査所見から診断は比較的容易である.きわめて多くの薬剤が無顆粒球症の原因になりうる.原因薬剤の特定に際しては注意深く病歴を聴取することが最も重要である.副作用情報も入手すべきである.いくつかの方法で抗好中球抗体を証明できる.再投与試験を行うと確実だが危険を伴う.無顆粒球症の原因となるおもな薬剤を表14-10-5に示した.急性ウイルス感染症においては,治癒後も遷延する好中球減少が生じることがある.また,さまざまな自己免疫疾患の部分症状として好中球減少が生じることがあるので鑑別が必要である.
治療
 疑わしい薬剤をすべて直ちに中止し,感染症発症を予防することが治療の基本である.すでに感染症を発症していれば,血液や感染部位の細菌培養を行うとともに,広域スペクトラムの抗菌薬を十分量投与する.抗菌薬が原因で無顆粒球症を発症したときは使用する抗菌薬の選択に注意が必要である.原因薬剤を中止すると好中球数は自然に回復する.顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF)の投与により好中球数の回復を促進することができる.
経過・予後
 回復の時期は骨髄所見から予測することができる.骨髄で成熟好中球がほとんど消失していても,前骨髄球および骨髄球が存在すれば,原因薬剤中止4~7日後には末梢血中に成熟好中球が出現してくる.未熟な細胞も激減している場合は好中球の回復も遅延するが,多くは2~3週間で回復する.好中球回復に先だってしばしば単球増加が認められる.回復期に好中球数が著増し,類白血病反応を呈することがある.急性期に十分量の抗菌薬を投与して細菌感染症を制御できれば予後は良好である.しかし,重篤な場合には感染症のために死の転帰をとることもある.高齢,敗血症,ショックおよび腎不全は予後不良因子である.[北川誠一]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「無顆粒球症」の解説

無顆粒球症
むかりゅうきゅうしょう
Agranulocytosis
(血液・造血器の病気)

どんな病気か

 前項で述べた白血球減少のうち、とくに好中球が著しく減った場合を無顆粒球症と呼びます。なお、顆粒球には好中球、好酸球好塩基球がありますが、その大半は好中球です。

原因は何か

 無顆粒球症の原因で最も多いのは薬剤性で、アレルギーとして起こる場合と骨髄抑制を来す抗がん薬などで中毒性に起こる場合があります。一般に無顆粒球症は薬剤によるアレルギー性の場合を指し、特定の人に発症します。

 原因となる薬剤としては、抗甲状腺薬、解熱鎮痛薬、抗生剤、精神安定薬などの頻度が高いのですが、抗血小板薬、抗潰瘍薬、降圧薬など一般臨床で使われているどのような薬剤でも起こり得ます。また、一度無顆粒球症を起こした薬剤は、再投与によってよりひどい症状が出るので注意が必要です。

症状の現れ方

 抗がん薬など、本来の作用として骨髄抑制を来す薬剤で治療を受けている場合はしばしば血液検査が行われていることが多く、顆粒球減少の程度から、感染を起こしやすい時期を予想できます。

 しかし、普通は白血球減少を起こさない薬剤でアレルギー性に発症する場合は検査を受けていることは少なく、突然の発熱や寒気、のどの痛みなどの感染症症状が現れて、検査をした結果、無顆粒球症に気づく場合がほとんどです。

検査と診断

 アレルギー性の場合は血液検査で赤血球や血小板に異常がなく、白血球(とくに好中球)の著しい減少がみられます。骨髄検査では顆粒球系の成熟細胞が特異的に消失しており、未熟な細胞や赤芽球(せきがきゅう)(赤血球系の若い細胞)、巨核球(きょかくきゅう)(血小板系の若い細胞)は残っています。

 一方、中毒性の場合は、貧血や血小板の減少もみられ、骨髄検査でも赤芽球や巨核球の減少がみられます。

 なお、細菌感染を合併している場合は、血液検査でCRPが上昇しています。重症の感染症が疑われる場合は、胸部X線検査(肺炎の場合)、尿の細菌検査(腎盂腎炎(じんうじんえん)の場合)、血液培養(敗血症(はいけつしょう)の場合)も必要になります。

治療の方法

 原因となる可能性がある薬剤を中止します。感染症を合併している場合は、広域スペクトラム(いろいろな菌に効く)をもつ抗生剤を投与しますが、無顆粒球症の原因が抗生剤である場合は、使用する抗生剤を慎重に選択する必要があります。必要があれば顆粒球刺激因子(G­CSF)を注射します。

 また、骨髄検査の結果、回復に時間がかかると予想された場合は、フィルターを通して無菌の空気が流れてくる無菌ベッドを利用する場合もあります。

病気に気づいたらどうする

 血液検査をしなければ診断ができないため、薬を服用している間に高熱が出た場合は、必ず主治医に診てもらう必要があります。たとえば、抗甲状腺薬は飲み始めて1~2カ月後に無顆粒球症が起こる場合が多いといわれています。ほとんどの症例で顆粒球は自然に回復しますが、なかには長期に持続して、生命に危険なこともあるので、入院が必要になる場合がほとんどです。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「無顆粒球症」の意味・わかりやすい解説

無顆粒球症
むかりゅうきゅうしょう
agranulocytosis

アグラヌロチトーゼ。白血球のうち顆粒球 (好中球,好酸球,好塩基球) が著しく減少した状態をいう。原因のなかで最も多いのは,薬剤 (サルファ剤,アミノピリン,クロマイ,抗甲状腺剤,抗癌剤など) によるもので,その他に放射線障害,血液疾患,膠原病,遺伝性のものなどがある。症状は高熱,扁桃炎,壊疽性口内炎などで,重症の場合には敗血症を起す。

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世界大百科事典(旧版)内の無顆粒球症の言及

【血液】より

…白血病と悪性リンパ腫は代表的な血液の癌である。 細菌感染などでは防御反応として顆粒球が増加するが,薬物アレルギーなどで急激に減少することもあり,これを無顆粒球症という。まれな遺伝性疾患として,顆粒球の機能が異常で,殺菌力が欠如しているため身体各所に感染症をきたす疾患もある。…

【白血球】より

…アミノピリンなどの解熱剤やその他の薬剤を投与されて,急激に好中球が減少することがある。一種のアレルギーによる好中球の破壊と考えられているが,このように好中球が極度に減少した状態を無顆粒球症という。一方,炎症が起こると骨髄からの好中球の供給が増し,末梢血液中の好中球は増加する。…

※「無顆粒球症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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