赤血球や白血球などの血液細胞のもとになる骨髄の造血幹細胞が侵され、正常な血液細胞がつくれなくなる血液がんの一種。貧血や疲労感、感染症にかかりやすいといった症状が出る。重症例に骨髄移植が行われる。
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骨髄異形成症候群(MDS)はその名のとおり、骨髄中の細胞に形態異常が生じるとともに、血球数の減少を来す病気です。血液細胞の種にあたる
この病気の特徴は、血球減少の経過をみているうちに、白血病に移行する例があるという点です。このため、かつては
造血幹細胞の遺伝子に異常が起こる原因はよくわかっていません。放射線照射や抗がん薬の投与を受けた患者さんに、二次的にMDSが起こることがあります。全体の約50%に染色体異常があり、がん遺伝子やがん抑制遺伝子の異常が証明される例もあります。
これらの遺伝子異常のために遺伝子が不安定な状態になり、当初はつくられた血液細胞が早く死んでしまう(アポトーシスを起こす)ために血球が減ります。しかし、やがて増殖能力の高い変異細胞が生まれ、その結果、急性白血病に移行すると考えられています。
ひとつあるいは複数の血球減少のため、息切れ・
MDSは、主に
末梢血では、貧血を中心とする2血球系統以上の血球の減少がみられます。それにもかかわらず骨髄の細胞密度は正常か、正常よりも高いことが特徴です。最も重要な特徴は、2血球系統以上の血液細胞に形態異常がみられる点です。
これを判定するためには、末梢血だけでなく、骨髄の細胞を詳しく観察する必要があります。代表的なものに
この病気で頻度の高い染色体の異常には、第8染色体トリソミー(+8)、第7染色体モノソミー(-7)あるいは長腕部分欠失(7q‐)、第12染色体短腕欠失(12q‐)、第5染色体長腕部分欠失(5q‐)、などがあります。
低リスクMDSでは予後を左右するのは骨髄機能の低下であるため、蛋白同化ステロイド薬や免疫抑制療法などの再生不良性貧血に準じた治療が行われます。また、活性化ビタミンDやビタミンKなどの分化誘導療法が効く例もあります。
エリスロポエチンという赤血球産生刺激ホルモンが効いて輸血が不要になる例もありますが、日本では保険が適用されていません。輸血が必要な若年の患者さんに対しては同種造血幹細胞移植が考慮されます。
高リスクMDSでは、イダルビシンとシタラビン(キロサイド)という抗白血病薬を組み合わせた治療によって50~70%に
根治を期待できる唯一の治療方法は、同種造血幹細胞移植です。かつては同種移植の年齢の上限は50歳とされていましたが、最近の支持療法の進歩や、
近年では、アザシチジンやデシタビンなどの脱メチル化薬によって、支持療法単独よりも生存期間が有意に延長されることが示されています。また、レナリドマイドという新薬は5q‐の染色体異常をもつMDSに著効を示します。これらの薬剤は、日本でも臨床試験が終了しており、間もなく保険薬として認可されると思われます。
MDSといってもその病態はさまざまです。すべてが白血病に移行するわけではないので、病気と長く付き合っていくという姿勢も大切です。
芽球割合と血小板数が少ないタイプのMDSのなかには、一見前白血病状態のようにみえても、免疫抑制療法によって完治する「MDSもどき」(実体は再生不良性貧血)が含まれています。これを鑑別するためには、発作性夜間血色素尿症(PNH)で認められる特定の膜蛋白が欠失した血球(PNH型血球)が末梢血中に増えていないかどうかを、特殊な検査方法を用いて調べる必要があります。このような特殊検査や治療方針、予想される予後については専門医とよく相談してください。
中尾 眞二
発症年齢のピークは60~70代で、人口の高齢化に伴い増えつつあります。高齢者の貧血で原因が明らかでない場合(貧血)は、考慮しなければならない重要な病気です。
症状としては、一般の貧血症状(
末梢血の赤血球、白血球、血小板の数、形態、
この病気にみられる無効造血の本態は、アポトーシスと呼ばれる細胞死であり、造血幹細胞の分化や成熟障害を起こし、血球減少から貧血、感染、出血などを起こすと考えられています。骨髄細胞の染色体検査では約70%の患者さんに異常がみつかります。
定期的に受ける健診の結果で、貧血が進行(赤血球、ヘモグロビンの値が減少)していたり、白血球や血小板の数が減少している場合は注意が必要です。
標準的治療法は確立されていないのが現状ですが、蛋白同化ホルモン、
血液細胞の形態異常が高度で、骨髄で未熟な細胞(
高齢者では生活の質(QOL)を考慮し、シタラビン(AraC)、アクラルビシン(ACR)の少量療法、シタラビンオクホスファート(SPAC)の経口投与が行われます。芽球の増加を抑制するのが目的ですが、急性白血病の治療と同じように無菌管理などの支持療法が必要になります。
急性白血病へ移行した場合には、抗がん薬を複数組み合わせて用いる多剤併用化学療法が行われますが、
造血幹細胞移植法もありますが、高リスク群で50歳以下の場合には同種骨髄移植の適応となります。70歳くらいまでの高齢者に対しては「ミニ移植」と呼ばれる
この病気の治療への反応性や予後は、芽球の比率、染色体異常、血球減少の程度により点数化した国際スコアリングシステムで予測することができます。
この病気が疑われた場合は、血液内科専門医がいる病院(血液科、血液内科、血液腫瘍科など)を受診してください。
大田 雅嗣
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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