中国の俗語体小説のこと。中国雅文体小説を〈文言(ぶんげん)小説〉というのに対する語。宋代(12世紀)の説話人(講釈師)の講史や説話などの口演台本である話本に発し,徐々に読む小説となっていった。明代中期(16世紀)に入って,庶民向けの平易な小説として定着し,羅貫中,施耐庵,呉承恩らの小説家が,古くからの講史,語り物を《三国演義》《水滸伝》《西遊記》等のすぐれた長編白話小説にまとめあげるに至った。これらの長編に対して,17世紀に入り,馮夢竜(ふうぼうりゆう)は《古今小説》(《喩世明言》),《警世通言》《醒世恒言》を著し,凌濛初(りようもうしよ)は《初刻拍案驚奇》《二刻拍案驚奇》を編んだ。いずれも当代の巷説,情話,奇談,怪異をとりあげ,世間や人生の諸相を反映した短編小説集で,総称して〈三言二拍(さんげんにはく)〉と呼ばれた。
こうした白話小説が日本に及ぼした影響は大きく,はやく17世紀ごろから長崎を通して舶載され,江戸は徂徠門,京は古義堂一門の儒学生の間に白話学(唐話学)のブームをもたらした。岡島冠山,岡白駒(はつく)らの専門家は,通俗本(翻訳)を著刊するかたわら,小説学をも開陳した。都賀庭鐘(つがていしよう)が翻案小説集《英草紙(はなぶさそうし)》《繁野話(しげしげやわ)》,上田秋成が《雨月物語》を発表するにおよび,白話小説は日本の近世小説のスタイルを一変させ,小説の新しい方途を示唆する重要な小説原典(典拠)となった。こうして,白話小説に素材や方法を求める傾向は江戸小説〈読本(よみほん)〉のジャンルの成立を促しただけでなく,曲亭馬琴らの長編読本や明治初期小説にまで及んだ。
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執筆者:高田 衛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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