皮革工業(読み)ひかくこうぎょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「皮革工業」の意味・わかりやすい解説

皮革工業
ひかくこうぎょう

皮革工業は広義には原皮生産業、製革工業、皮革製品製造業の3部門によって構成されている。しかし、原皮生産は製造業というよりむしろ畜産業の関連産業であり(とくに日本では第二次世界大戦前から輸入依存率が高く、製靴用甲皮を中心とする牛革の比重が高い)、繊維布に合成樹脂を塗った合成皮革や超極細繊維からつくる人工皮革(高級品用新素材)などは化学工業部門に属する。このため、一般に日本で皮革工業とよぶのは、製革工業(皮なめしの諸工程と塗装および装飾を施す工程)と皮革製品製造業(革靴を中心とする革製履き物、鞄(かばん)・袋物、手袋、革バンド、工業用革製品〈ベルト、パッキン、紡織機用エプロンバンド、織機用ピッカーなど〉)の2部門である。

[殿村晋一]

歴史

江戸時代、姫路革(白靼(しろなめし)革)を中心に武具馬具、箱類、袋物など工芸品の製造にとどまっていた日本の皮革工業は、幕末・明治初頭の洋式軍隊組織の創設による軍靴製造を中核として、近代工業への発展の契機が与えられた。陸奥宗光(むつむねみつ)が郷里の和歌山士族の子弟を中心に西洋式製靴技術を普及させた「鞣革靴練習所」などにみられるように、士族層の参入がみられたのである。製靴技術の指導面ではレマルシャンF. J. Le Marchand(オランダ)、ハイトケンペルGeorg Freidrich Hermann Heidkaemper(ドイツ)、ヘニンゲルCharles Henning(アメリカ)等、外国人技術者の貢献が大きく、日清(にっしん)・日露戦争を挟む明治中期から大正期の30年間に、製靴の機械化(釘(くぎ)打ち式のマッケー製靴機の導入)も進んだ。その後、大正デモクラシーによる社会状況と、関東大震災後の民需靴の急増、そして第二次世界大戦後の経済復興と欧米風生活様式の定着とともに、民需中心の市場構造が確立した。それと同時に、工程の合理化と婦人靴部門における技術革新が本格化した。

[殿村晋一・永江雅和]

現状

日本の原皮の海外依存度は、自給可能な豚皮を除き、第二次世界大戦前・戦後とも非常に高い。輸入皮の95%は牛皮で、戦後はアメリカ、オーストラリア等からの原皮輸入が一貫して高い比率を占めている。主要原料輸入相手国がアメリカであることから、高度成長期までの国内皮革工業はアメリカ産原皮の価格変動に強い影響を受ける立場であった。しかし、1971年(昭和46)のドル・ショック後の円高は原料調達価格の低下につながり、国内市場の拡大も作用して、業界の成長につながる側面もあったほか、国内市況によっては、輸入原皮を一次加工して再輸出する加工貿易的対応を行うことで市場対応が行われた。1980年代以降は、製品のカジュアル化の流れと新興国の低価格品の流入により、価格競争が激化するなかで、大手製靴メーカーのなかには、製造拠点を中国等に移転する動きもみられる。

 「なめし皮・同製品」(毛皮製品を除く)の出荷総額は、2008年(平成20)の工業統計表によれば4683億円である。県別統計では、事業所数、従業者数、出荷額のいずれにおいても、東京都、兵庫県が突出しており、これに大阪、埼玉、千葉、愛知、福島、山形、佐賀が次ぐ状況である。全国の従業員4名以上の事業所数は2200、従業者数は2万9677人であるが、うち2033企業が従業者30人未満の小零細企業で、従業員300人以上の大企業は1社にすぎない。

 皮革製品製造業(出荷総額4063億円)の出荷額を1985年時と比較すると、工業用革製品は88億円(1985)から310億円(2008)に、革製履き物・同材料・同付属品は5000億円(1985)から1924億円(2008)に、鞄類は1264億円(1985)から724億円(2008)に、袋物は1765億円(1985)から880億円(2008)に、推移している。履き物類がこの分野の47%と最大の比率を占めているが、出荷額を伸ばしているのは工業用革製品のみである。

 皮革各業界とも機械類の高性能化・工程合理化が進展しているほか、量産体制から高級化、多品種・少量生産に移り、ニーズの多様化に対応した国内外の「協力工場」の積極的活用を図っている。また、皮革各業界は、ファッション性を強める傾向にあり、国内外の市場動向に敏感である必要があるほか、欧米の高級ブランドとの品質競合、新興国製品との価格競合の両面に対処し、活路を見出してゆくことが求められている。

[永江雅和・永江雅和]

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百科事典マイペディア 「皮革工業」の意味・わかりやすい解説

皮革工業【ひかくこうぎょう】

原皮をなめす部門と,靴・かばんなどの加工部門がある。日本では中小企業が圧倒的。ゴム・合成皮革の進出で競争が激しく,生産額も減少してきている。1997年の皮革製品の生産額は3895億円。→軽工業
→関連項目化学工業皮/革

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