日本大百科全書(ニッポニカ) 「盤圧」の意味・わかりやすい解説
盤圧
ばんあつ
地圧ともいい、地殻の内部とくに岩盤内に生じている圧力をいう。地下の岩盤はどの部分をとっても、それより上部にある岩石の自重に相当する垂直圧を受けている。一方水平方向にも垂直圧に見合う大きな圧力が作用している。垂直圧はかぶり圧ともよばれ、地表からの深さに岩石の比重量(単位体積当りの重量)を掛けて求める。水平圧は側圧または横圧ともいい、普通、垂直圧の1/3ないし1/4くらいにとるが、地質変動を受けた地域では、垂直圧より大きい横圧が生じている場合もある。また地下深部に進むにつれて垂直圧と横圧が等しくなり、いわゆる静水圧状態になることも知られている。このように自然の状態で岩盤内部に生じている盤圧をとくに一次盤圧(あるいは一次地圧)とよび、他の盤圧と区別している。
地下にトンネルや坑道などの空洞を掘削すると、掘削以前に平衡状態にあった一次盤圧に変化が生じ、坑道の周辺に一次盤圧を超える圧力集中帯が発生する。坑道周辺の岩石のうち、これらの集中圧力に耐えられなくなった部分は、次々と破壊して、坑道の周りに破砕帯が形成される。このようにして形成された破砕帯のことを免圧圏あるいは弛(ゆる)み域とよぶ。破砕帯内部は盤圧が大部分解放されており、地表からの盤圧は破砕帯の外側のまだ破壊していない岩盤(地山という)によって支えられる。すなわち破砕帯は自然の岩盤から遊離した領域であるので、免圧圏あるいは弛み域などの名がつけられたものと思う。地表下1000メートルという深い坑道の維持が浅い坑道に比較してほとんど差がないという事例は、免圧圏の形成という事実によって説明することができる。免圧圏の大きさは一次盤圧、支保工などの影響を受けるが、とくに岩盤の物性と密接な関係がある。軟弱な岩盤ほど大きな弛み域が生ずる。また膨潤性の岩盤では、時間の経過とともに次々と弛み域が拡大し、岩盤が空間内に張り出してきて支保を破壊したり、鉱車や人の通行が不可能になるまで坑道を縮小させてしまう場合もある。坑道の天井や側壁に比べ床面のみが著しく張り出してくる現象を盤ぶくれという。軟弱で膨潤性の岩盤に共通してみられる現象である。これは、坑道の床面には支保が施されていないため、破壊に伴う岩盤の流動が無抵抗の床面に集中するためであろう。このほか炭鉱では炭層採掘の影響を受けてさまざまな盤圧現象が発生し、災害に発展することもある。いずれにしても盤圧現象は、坑道開削の結果一次盤圧の平衡が破られ、新たな盤圧平衡に移行するまでの過程としておこるものである。一次盤圧が変化し空洞の周りに新たに生起された盤圧を二次盤圧という。
一次盤圧、二次盤圧に対し坑道に施した支保に作用する圧力を現場用語で荷(に)とよび、しばしば盤圧と同じ意味に用いられている。たとえば、支保が損傷するような大きな圧力が支保に作用している場合に、荷が強いとか、盤圧が大きいなどというのはその典型的な例である。しかし荷と先に述べた盤圧とは区別すべきものである。荷はむしろ、盤圧の作用で形成された免圧圏内の岩盤の重量や岩盤の変形あるいは流動によって、坑道に押し出してくる圧力を支え、抑制するために支保に働く荷重と解釈すべきである。したがって、盤圧が大きくても、岩盤が堅固のときは、支保にかかる荷は小さく坑道維持は容易である。これに対して、盤圧が小さくても、岩盤が軟弱なときは、大きな圧力が支保に作用して坑道維持は難航する。トンネルや坑道の断面を円形あるいはアーチ形にするのは、周囲の岩盤の圧力の増大をできるだけ少なくし、支保にかかる荷を軽減するためである。また支柱の枠間を矢木で緊定したり、コンクリートなどで覆工するのは、弛み域の拡大を防止し岩盤の早期安定を達成するうえにも効果があるといわれている。最近は坑道の周辺にロックボルトを打設し岩盤の自立構造を高める工法が発達してきたが、これなどは盤圧現象を理解した合理的な工法といえる。
地下深部を貫くトンネルや深い鉱山の坑内では、山はね、ガス突出など盤圧に基づく災害が発生している。山はねは、炭鉱坑内に残された炭柱、あるいは掘進中の炭層や岩盤が突然破壊しはね出してくる現象である。ガス突出は、破壊し粉化した石炭が多量のガスといっしょに突然噴出してくる現象である。いずれも、発生する前にポンポンという帯切れのような音が頻繁に聞こえる。炭鉱ではこれを山鳴りといって、山はね、ガス突出の前兆の一つとして重視している。山鳴りは、盤圧によって坑道奥部の炭層や岩盤が破壊する音であって、大きなものは坑外に設置した地震計によって感知される。深部開発を行っている炭鉱や鉱山では、このような盤圧に基づくいろいろの障害を防止することはきわめて重要な問題であって、関係各方面において鋭意研究が進められている。
[木下重教]