菊池寛の長編小説。1920年《東京日日新聞》《大阪毎日新聞》に掲載。唐沢男爵の令嬢瑠璃子は,父をおとしいれた船成金の荘田勝平の後妻となり,身体を許さずに老醜の夫を翻弄する。勝平は白痴の息子に襲われて急死,瑠璃子の復讐は成就するが,莫大な遺産を相続した彼女はサロンの女王として君臨し,女性を弄ぶすべての男性に挑戦する。しかし,崇拝者の一人,青木稔を義理の娘美奈子が慕っていることを知った彼女は,稔をしりぞけるが,その真意を誤解した彼に刺されて死ぬ。驕慢な妖婦として描かれた瑠璃子には,大正期の〈新しい女〉の幻想が投影されており,家庭小説の枠組を破った新しい通俗小説の誕生を告知する画期的な作品である。
執筆者:前田 愛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報