狭義には、有夫の女性が夫以外の男性と性的関係をいっさいもたないことを意味するが、広義には、当事者が男であるか女であるか、有配偶者か独身者か、また、既婚者か未婚者かを問わず、性に関するさまざまなルールの遵守を意味し、性的純潔に近い意味に用いられる。
現在の日本では、一般に配偶者をもつ男女双方が、配偶者とのみ性関係をもち、他の異性とは性関係をもたないことを意味しており、その考え方は民法の離婚法の内容にも反映されている。しかし、1947年(昭和22)の民法旧規定の廃止までは、貞操義務は妻のみに課せられ、夫に対しては存在しなかった。さらに、地方や階層によっては、未婚の女性や未亡人の性関係を禁じ、貞操義務を夫婦関係から拡大する考え方もあった。一方では、地域によってはよばいなどの慣習が盛んで、男女とも結婚前の性的放縦は認められているが、結婚後の姦通(かんつう)は男女ともに社会的非難を受けるなど、明治期以降、第二次世界大戦までの日本に限っても、社会的、文化的な諸要素が貞操観念に影響を与え、多様であるとともに変化が生じていたのである。
未開社会などでは貞操観念が弱く、性的放縦が認められているというような通念があるようだが、むしろ、そのような社会では、性関係をはじめ、人々が生きていくうえでかかわってくるさまざまなルールに違反した場合には、それを厳しく罰する傾向が強く、処罰は俗的のみならず宗教的にも下されると考えられ、性関係のルール違反は、ときにはタブー視される。ただし、その内容は夫婦関係のみにとどまらず、外婚制・内婚制の婚姻ルール、あるいは近親相姦の禁止のルールなど、性全般の問題とかかわっており、現代の日本社会の場合よりも貞操観念の内容は複雑である。
キリスト教社会における貞操観念は、男女の結婚が神との契約の形で行われるため、より宗教的であるが、キリスト教全盛の中世ヨーロッパで貞操帯が数多くつくられたなか、その合い鍵(かぎ)が当の婦人に売りつけられたことなどは、婚外の性関係が頻繁にもたれたことを意味しており、貞操観念は形どおりではなかったことが明らかである。つまり、貞操の内容は、婚姻制度のみならず、家族や親族の制度ともかかわっていて、日本では明治期以降、女性のみの純潔や貞操が重視されたことは、「家イデオロギー」の強化と深いかかわりがあったことはいうまでもない。したがって、家族制度そのものに大きな変化が生じつつある先進工業化社会においては、貞操の内容も変わってゆくことが予想される。
[波平恵美子]
性的自由または一夫一婦婚を基礎づけるために認められた法律上の概念。脅迫、詐欺あるいは暴力などによって性的行為を強いられたときは、被害者は、その性別が男性であるか女性であるかを問わず、貞操に対する侵害として、加害者に対し、不法行為による損害賠償を請求することができる。また、加害者は、強制性交等の罪として処罰される。2017年(平成29)の刑法改正前は、暴行または脅迫を用いて姦淫された女性が告訴すれば、加害者は強姦罪として処罰された。それゆえ、貞操は女性にのみ認められ、男性には法的に保護される貞操がないと考えられていた。しかし、2017年の刑法改正により性犯罪が厳罰化され、暴行または脅迫を用いて性交、肛門(こうもん)性交または口腔(こうくう)性交をした者は、その性別に関係なく、5年以上の有期懲役に服さなければならない。そして、この罪(強制性交等罪)は親告罪ではなくなったため、被害者の告訴がなくても、加害者はその罪に問われることとなる。
ところで、家庭生活においては、夫婦は互いに貞操を守る義務を負っており(守操義務または貞操義務という)、この義務に反して配偶者以外の異性と性関係をもてば、不貞行為として離婚原因となる(民法770条1項1号)と同時に、不貞行為をした夫婦の一方と不貞行為の相手方たる異性とは、配偶者のもつ貞操要求権を侵害したものとして、損害賠償の責任を負わなければならない(最高裁判所判決昭54・3・30、民集33巻2号303頁)。このような夫婦間の貞操義務は、一夫一婦婚を前提とする近代的婚姻観から導き出されたものである。
[石川 稔・野澤正充 2018年1月19日]
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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