真空鋳造(読み)しんくうちゅうぞう(その他表記)vacuum casting

改訂新版 世界大百科事典 「真空鋳造」の意味・わかりやすい解説

真空鋳造 (しんくうちゅうぞう)
vacuum casting

溶融金属中に溶解している水素酸素窒素などのガスは,鋳塊鋳物のピンホール,ブローホール,巣などの鋳造欠陥の原因となるが,ほかに製品の性質を劣化させる酸化物や窒化物などの非金属介在物の生成,均熱や焼きなましの際のふくれなどの原因ともなる。これらのガス成分を除去して鋳塊や鋳物を製造するために行う真空処理を真空鋳造という。真空処理によって脱ガスをすると,たとえば,脱水素では鋳鋼の白点感受性が減少し,脱酸素および脱窒素では非金属介在物が低下し,機械的性質および鋳塊内部の健全性の向上などが達成されるので,高級鍛造品の製造に使用することができる。溶融金属中に溶解している水素,酸素,窒素などの二原子分子のガス溶解量Wと,気相中のガスの分圧Pとの間にはWk\(\sqrt{P}\) (k定数)の関係(シーベルトの法則)がある。溶融金属を真空処理することは,ガスの分圧Pを小さくすることなので,溶融金属に溶解するガス量Wが減少して脱ガスが達成される。溶融金属の真空脱ガス法vacuum degassing processには,出鋼取鍋(とりなべ)を真空容器に入れて排ガスし,2~20mmHgに保持してから鋳造する取鍋脱ガス法,真空容器内(1~10mmHg)に設置した取鍋または鋳型に溶融金属を細かい液滴として注入する真空流滴脱ガス法,溶融金属を取鍋と真空容器との間を循環させる真空循環脱ガス法,真空容器に取鍋中の溶融金属を吸い上げることを繰り返す真空吸上げ脱ガス法などがある。小重量の鋳塊または鋳物は,真空容器内で溶解,鋳造が行われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「真空鋳造」の意味・わかりやすい解説

真空鋳造
しんくうちゅうぞう
vacuum casting

溶融金属を真空に近い減圧室内に置き、含有するガスを抽出排気してから鋳型に鋳造する方法。大気中や溶解炉雰囲気中で溶解した金属は、酸素、水素、窒素その他のガスを吸収しており、鋳型中で凝固するときにその一部を放出して気泡巣その他の欠陥を生ずる原因となる。そこで、溶融金属を入れた取鍋(とりべ)を密閉室内に置き、この部屋を真空に排気すると、かなりのガスが溶湯から抽出される。とくに拡散速度の大きい水素は有効に除去される。その後その室内で鋳造したり、ふたたび大気圧に戻して室外に取り出して鋳造したりする。また、真空室内に鋳型や取鍋を置き、大気中で溶解した金属を入れた取鍋の底部から、真空室の蓋(ふた)にあけた孔(あな)を通して溶湯を注ぎ込み、細かい液滴となって真空室内の鋳型や取鍋に注入されるようにして効果的に脱ガスを行う方法もある。

[井川克也]

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百科事典マイペディア 「真空鋳造」の意味・わかりやすい解説

真空鋳造【しんくうちゅうぞう】

真空中で溶融金属を鋳込むこと。金属の酸化が防がれ,金属中のガスの放散が促進されるので,良質の鋳物インゴットが得られる。広義には真空中で脱ガスした溶融金属を鋳込む方法も含まれる。→鋳造

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「真空鋳造」の意味・わかりやすい解説

真空鋳造
しんくうちゅうぞう
vacuum casting

金属材料を真空容器中の鋳型で鋳造する方法。真空溶解は脱ガス,清浄の効果は最もよいが,鋼塊の鋳造のように大型多量の製造への適用は困難なので,真空鋳造はこれに代る一種の便法である。ただしこの方法では,脱窒素,脱水素はよく行われるが脱酸はあまり効果がないので,事前に脱酸剤により十分脱酸しておかなければならない。溶鋼取鍋ノズルを真空容器中の他の取鍋に差込んで溶鋼を注入し,脱ガスする方法も行われる。

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世界大百科事典(旧版)内の真空鋳造の言及

【鋳造】より

…溶湯表面にできる酸化物で汚されていない湯を静かに充てんでき,鋳型が炉上にあって常に加熱されているため,鋳造条件が安定しており,安定した品質の鋳物が得られる。(3)真空鋳造 真空中で溶融金属を鋳込む方法。金属が酸化されるのを防ぎ,金属中に含まれる気体の放散が促進されるので,良質の製品が得られる。…

※「真空鋳造」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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