挂甲(読み)かけよろい

精選版 日本国語大辞典 「挂甲」の意味・読み・例文・類語

かけ‐よろい ‥よろひ【挂甲】

〘名〙 (肩に掛けて着る鎧(よろい)の意)
① 鉄や革の小片を横に連ねて綴じ、縦に威(おど)して胴の前後をおおう鎧の一種。
武官威儀の鎧。布帛で作り甲板を彩色する。風流の挂甲は布帛の家地(いえじ)に金泥または金銅の札(さね)をつけて色糸で威し、大儀の際の所用とする。うちかけよろい。
[補注]②については、「令義解‐衣服・武官朝服条」に「衛府督佐〈略〉白襪。烏皮履。会集等日。加挂甲槍」とある。

けい‐こう ‥カフ【挂甲】

〘名〙 古代の鎧(よろい)の一種。鉄、金銅または革の短冊(たんざく)形小片を革紐で横に連結し、これを縦に数段に綴って上半身を防護するもの。古墳時代にさかんに用いられたが、平安時代以後には儀礼用となる。かけよろい。うちかけよろい。
正倉院文書‐天平六年(734)六月二四日・尾張国正税帳「挂甲陸領料稲陸伯束」

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デジタル大辞泉 「挂甲」の意味・読み・例文・類語

けい‐こう〔‐カフ〕【×挂甲】

古代のよろいの一。革や金属からなる細長いさねとよぶ板を韋緒かわおで横につなげ、これを縦に韋緒や組糸で数段おどしつづけ、胴体の前後を覆って防御としたもの。騎射戦用の鎧として用いた。衛府えふの武官の料として平安時代以後には儀仗ぎじょう用となった。かけよろい。うちかけよろい。

かけ‐よろい〔‐よろひ〕【×甲】

けいこう(挂甲)
絹布に墨・漆などを塗って作った礼装用の鎧。武官が儀式に着用した。うちかけよろい。

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改訂新版 世界大百科事典 「挂甲」の意味・わかりやすい解説

挂甲 (けいこう)

小札(こぎね)を綴り合わせて作った伸縮性をもつ甲(よろい)。騎兵用の武具として発達したもの。古語は〈かけよろい〉。挂甲の小札は鉄製または革製がふつうであるが,銅製あるいは骨製を用いたり,銅銭を転用した場合もある。小札の綴り方は,革紐,組緒(くみお)などを用いて,まず左右に連結して1段としたものを上下に重ねてゆく。ただし,日本では上段の小札の上面に下段の小札を重ねるが,アジア大陸では上段の小札の下面に下段の小札を重ねることが多い。中国の挂甲の歴史は,湖南省長沙左家公山戦国墓出土の革製挂甲や,河南省洛陽西郊前漢墓出土の鉄製挂甲にさかのぼることができる。秦始皇陵兵馬俑に見る甲の手法は,胴甲を固定的に威(おど)し,草摺(くさずり)と肩甲(かたよろい)とを挂甲の手法で伸縮性をもたせて作ったものである。この挂甲の手法を用いた部分では,下段の小札を上段の小札の上面に重ねていることに注意したい。

 日本の挂甲は乗馬の風習とともに大陸から伝来したもので,5世紀後半ごろ鉄製挂甲が現れた。大阪府長持山古墳出土の挂甲は,草摺を備えた胴甲のほかに,小札を綴った肩甲と膝甲(ひざよろい)とが伴出している。挂甲に肩甲,膝甲が付属する状態は武人埴輪の表現にも見ることができる。輯安通溝)高句麗古墓や敦煌莫高窟の壁画には,挂甲を着用し小札を威した冑をかぶる武人像がある。日本では4世紀の古墳から小札を固定的に威した冑が出土した例はあるが,それが挂甲に伴出した例はない。《東大寺献物帳》に,短甲は冑とともに1具とかぞえ,挂甲は甲のみを1領と記載していて,取扱いに相違を示すのは,挂甲伝来時からの習慣かもしれない。
甲冑
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「挂甲」の意味・わかりやすい解説

挂甲
けいこう

小札(こざね)をつづり合わせてつくった防御具。その起源オリエントにあると推定される。中国では、戦国時代以降に発達し、5世紀中葉には、騎馬の術とともに朝鮮を経て日本に伝わっていた。小札はまれに金銅装(こんどうそう)のものもあるが、ほとんどの例が鉄製である。挂甲一領を構成する小札には、たとえば、腰の部分には、特徴的な湾曲を示す細長い小札を用いているというように、長さや幅などにいくつかの種類があった。挂甲の場合、通常、胴部と草摺(くさずり)を一連につくっているが、小札をつなぐのに革紐(かわひも)や組緒(くみお)を用いているため、短甲に比べて動きやすい。付属具には、襟(えり)、肩甲(かたよろい)、籠手(こて)、臑当(すねあて)などがあり、騎兵用の武具であった。挂甲の完全な姿を知りうる例は非常に少ないが、6~7世紀の武人埴輪(はにわ)により、その着装状態をうかがうことができる。6世紀以降、短甲にかわって防御具の主流となった。ちなみに、『東大寺献物帳(けんもつちょう)』に記載されている「御甲壹佰具」のうちの90具は挂甲である。古墳時代の挂甲から、正倉院に伝わる挂甲を経て、平安時代の大鎧(おおよろい)へと変化した。

[小林謙一]


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百科事典マイペディア 「挂甲」の意味・わかりやすい解説

挂甲【けいこう】

かけよろい,札甲ともいう。革・鉄・銅製の小札(こざね)を紐(ひも),革紐でつづり合わせたよろいで,4世紀ごろ朝鮮から伝来,古墳時代以降多く用いられたが,平安中期以後儀式用としてのみ残った。古墳の副葬品や埴輪(はにわ)の着衣に多くみられる。→短甲
→関連項目甲冑胴丸

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「挂甲」の解説

挂甲
けいこう

小札(こざね)を革紐ないし組紐で縅(おど)し,胴・腰・草摺(くさずり)が一体となった鎧。「延喜式」によれば挂甲1領に800枚の小札を使用するという。胴1連に作られ正面で引きあわせる胴丸式と,胴の前後に垂下し左右は別におおう裲襠(りょうとう)式の2種類がある。古墳から出土する数では前者が圧倒的に多い。中国にその源があり,日本では朝鮮半島との交渉が盛んであった5世紀中葉頃に現れた。前者は,古墳出土の武人埴輪にも表現され,正倉院宝物中にもそれと思われるものがある。後者は,中世の儀礼的な裲襠式挂甲へと続くと思われる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「挂甲」の意味・わかりやすい解説

挂甲
けいこう

「うちかけよろい」「かけよろい」ともいう。古代の鎧 (よろい) の一種。鉄や革などの小札 (こざね) を革紐や組糸で綴合せ (→威し ) ,肩からうちかけて着用し防御するもの。中国では漢代の頃よく用いられ,日本へは朝鮮から伝来したという。古墳時代の中期頃には,鉄板を鋲や革紐で固定し胴部をおおう短甲 (たんこう) が盛んに用いられたが,後期になると挂甲がこれに取って代り,奈良,平安時代前期には武官の儀仗用となった。これを着装した人物埴輪を多く見受けるが,古墳の副葬品のなかには金銅製のものもある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「挂甲」の解説

挂甲
けいこう

古墳時代中期以降の古代のよろい
「かけよろい」とも読む。小札 (こざね) と呼ぶ小金属をつづり合わせてつくったもので,5世紀ころ朝鮮からとり入れられた。古墳時代の小札には鉄製のほか金銅製のものもあり,8世紀以後には革製のものも現れた。平安時代になると儀礼の武装として用いられ,実用性を失った。

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普及版 字通 「挂甲」の読み・字形・画数・意味

【挂甲】けいこう

被甲。

字通「挂」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の挂甲の言及

【挂甲】より

…古語は〈かけよろい〉。挂甲の小札は鉄製または革製がふつうであるが,銅製あるいは骨製を用いたり,銅銭を転用した場合もある。小札の綴り方は,革紐,組緒(くみお)などを用いて,まず左右に連結して1段としたものを上下に重ねてゆく。…

【甲冑】より

…さらに,諸民族の例にみられた樹皮や皮革などでつくった胴甲の存在も考えれば,遺存しにくい有機質の甲冑が普及していた可能性を否定することはできない。古墳時代の甲には,短甲挂甲(けいこう)がある。短甲は各種の鉄板をつないでつくった短い甲で,腰から上を覆う。…

【冑∥兜】より

…頭にかぶる鉄製の武具。古墳から出土する甲(よろい)には短甲挂甲(けいこう)の2種があり,冑にも衝角付冑(しようかくつきかぶと)と眉庇付冑(まびさしつきかぶと)の二つがある。形の上で衝角付冑は短甲に,眉庇付冑は挂甲に属するものと思われる。…

【古墳文化】より

…騎馬戦の完遂のためには,いままでの革綴じを鋲留めにあらためた短甲では,なお身体の自由を欠くことがわかった。そこでまた,大陸の武装にならって,短甲とは構成原理を異にする,鉄の小札(こざね)をつづりあわせた挂甲(けいこう)を採用することになった。それにつれて,攻撃武器としては弓矢の重要性が増大した。…

※「挂甲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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