改訂新版 世界大百科事典 「磁力選別」の意味・わかりやすい解説
磁力選別 (じりょくせんべつ)
magnetic separation
磁力を利用して磁性の異なる物質からなる粒子を分離する選別技術のことで,磁選ともいう。磁力選別は,鉄,マンガン,チタンなどの強磁性体鉱物を含む鉱石に対する選鉱法として重要であるばかりでなく,磁鉄鉱やケイ素鉄(フェロシリコンともいい,ケイ素と鉄の合金)などのいわゆる磁性重液材を使用する石炭や鉱石の重液選別においても,重液材を浄化・回収する手段として欠かせないものであり,さらにまた,窯業原料の脱鉄やスクラップから鉄材をより分けるような目的にも広く使われている。
磁力選別に使われる装置は磁選機と呼ばれ,その種類は使用の目的と方法により,乾式と湿式,弱磁力型と強磁力型などに分類することができる。これらの磁選機が対象とする原料の粒度は数十mmから数μmの範囲に及んでいる。一般に物質は常磁性体,反磁性体,強磁性体に分けられ,原理的にはこれらのすべてが磁力選別の対象となりうる。実際に鉱物の同定などに用いられる実験室用小型磁力選別装置としては,あらゆる原料物質の固体粒子をわずかな磁性の相違によって分離する目的のために設計され,使われているものがあるが,工業規模の応用としては,分離対象粒子群の一部が強磁性体である場合がほとんどである。
図は湿式ドラム型磁選機の構造を示したものである。強磁性体でないステンレス鋼などで作られた回転円筒の中に数個の動かない磁極をもつ電磁石(または永久磁石)が配置されており,円筒を囲む液槽に原料のスラリー(パルプ)が供給されると,その中に含まれる強磁性体粒子が円筒内の磁極に吸い寄せられ,円筒の回転にともなって分離・排出される仕掛けになっている。分離ゾーンにおける磁束密度は0.1~0.3T程度になっている。この型の磁選機は磁鉄鉱,磁硫鉄鉱などの選鉱やケイ素鉄の分離等に広く用いられている。このほかに強い磁界と大きな磁気こう配をもつように設計された磁選機もある。閉じた磁気回路の中に分離ゾーンが取り込まれており,分離ゾーンにはマトリックスと呼ばれる強磁性体の金網や繊維の塊が収納されている。金網の素線や繊維の多数の接点に強く収束する磁界が形成され,そこに原料中の強磁性体粒子が吸引・捕捉される。捕捉された粒子は電磁石の電流を切ったのちに排出・回収される。同じ原理で連続操作が可能なように設計された装置もある。この型の磁選機は,窯業原料中の極微粒の鉄やチタンを含む粒子の除去などに近年広く用いられるようになったものの一つである。
執筆者:井上 外志雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報