(読み)キン(英語表記)qìng

デジタル大辞泉 「磬」の意味・読み・例文・類語

きん【×磬】

唐音》読経の際に打ち鳴らす、銅製や鉄製の鉢形をした仏具。禅宗で用い始めたもの。けいとは異なる。銅鉢。

けい【×磬】

中国古代の打楽器。枠の中に「へ」の字形の石板をつり下げつの製のつちで打ち鳴らすもの。石板が1個だけの特磬と、十数個の編磬とがある。宋代に朝鮮に伝わり雅楽に使用。日本では奈良時代以降、銅・鉄製の特磬を仏具に用いる。

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精選版 日本国語大辞典 「磬」の意味・読み・例文・類語

けい【磬・&JISF7E4;】

  1. 〘 名詞 〙 古代中国の打楽器。枠(わく)の中に石板をつり下げて、角製の槌(つち)で打ち鳴らすもの。太古に起こって殷代の代表楽器となり、周代以来雅楽の楽器として使用。石板が一個の特磬と十数個の編磬とがある。宋代に朝鮮に渡り、雅楽の楽器として使用。日本では奈良時代以後、仏具として用いられ、仏前の礼盤の右側に置き、導師が勤行(ごんぎょう)の時などに打ち鳴らした。うちならし。うちなし。→磬(きん)
    1. 磬〈岩手県中尊寺蔵〉
      磬〈岩手県中尊寺蔵〉
    2. [初出の実例]「合磬弐口〈一口銅径一尺七寸 一口鉄径一尺二寸五分〉」(出典:法隆寺伽藍縁起并流記資財帳‐天平一九年(747))
    3. [その他の文献]〔周礼‐冬官・磬氏〕

きん【磬】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「きん」は「磬」の唐宋音 ) 読経のとき、桴(ばち)で打ち鳴らす仏具。銅または鉄製で、直径一、二尺(一尺は約三〇センチメートル)の鉢形をしたもの。一尺に満たない小形のものは鈴(りん)という。元、禅宗で用い始めたもの。磬(けい)とは異なる。
    1. [初出の実例]「黄昏自鳴坐禅磬」(出典:空華日用工夫略集‐応安五年(1372)七月一日)
    2. 「方丈を隔ててつとめする磬(キン)の響」(出典:浮世草子・近代艷隠者(1686)五)

磬の補助注記

「二十巻本和名抄‐四」には「方磬 律書楽図云磬〈苦定反 方磬俗云奉強〉懸二十四」とあり、平安時代中期には、まだ「きん」と読んでいなかったと思われる。


うち‐なし【磬】

  1. 〘 名詞 〙うちならし(打鳴)
    1. [初出の実例]「磬 順云和名宇知奈之」(出典:書陵部本名義抄(1081頃))

きょうキャウ【磬】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「きょう」は「磬」の呉音 ) ⇒けい(磬)

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普及版 字通 「磬」の読み・字形・画数・意味


16画

(異体字)
11画

[字音] ケイ
[字訓] うちいし

[説文解字]
[甲骨文]

[字形] 形声
声符は(けい)。声は磬の象形でその初文。これを鼓(う)つ形は、その石は磬。〔説文九下に「樂石なり」とし、「(きよ)に縣(か)くるの形に象る。殳(しゆ)は之れをつなり」といい、重文として声の字を録する。〔詩、商頌、那〕に「に和し且つなるは、我が磬聲に依る」とあって、磬は神人相和する楽に用いる。

[訓義]
1. うちいし、けい。
2. けいをうつ音。
3. 磬の形のように腰を折る、磬折。
4. 磬のように懸ける、くびる。
5. と通じ、つきる。
6. 磬控は馬を扱う。

[古辞書の訓]
〔和名抄〕磬 宇知奈良之(うちならし)〔名義抄〕磬 ツキヌ・コトゴトク・シツカニ・ウチナ(ラ)シ 〔立〕磬 ウチナラシ・マウス・ウチイシ・ツクス・ツク

[声系]
磬はまたに作り、がその初文。〔説文〕に声として謦・・馨・聲(声)など六字を収める。もと磬声の高くすんだ音をとるものであろう。

[語系]
磬・khyengは同声。は〔説文〕五下に「中、なり」と訓し、字は缶に従って缶器、また楽器にも用いた。khyengは同声。〔説文〕七下に「なり」と訓し、空の意はと通用の義であろう。

[熟語]
・磬・磬管磬虚・磬・磬県・磬控磬錯・磬師磬鐘・磬色・磬石・磬折
[下接語]
玉磬・撃磬・県磬・石磬・飯磬・風磬・編磬・梵磬・幽磬

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改訂新版 世界大百科事典 「磬」の意味・わかりやすい解説

磬 (けい)
qìng

中国古代の体鳴楽器。石あるいは玉の板に彫刻をほどこしたものを架につるして,木づちで打奏する。後には金属製となった。殷代には,大形の磬を一つつるした〈特磬〉が存在し,周代以来,雅楽で用いられた。1950年殷墟から嬰ハの音高をもつ虎紋入りの大理石の磬が出土している。磬の形には半円形と〈へ〉の字形の2種があり,長さの比は2対1である。音高の異なるいくつかの磬を組み合わせて木の架(虡(きよ)または簨虡(しゆんきよ)という)につるしたものを〈編磬〉といい,殷代には磬が3枚のもの,周代にはすでに十数枚を木架に1列につるしたものも存在した。並べ方は16枚の磬を木架の上下2段に並べ,下段は右より左へ,上段は左より右へ順次半音ずつ高く並べる。それぞれの磬は形と大きさが同じでも,厚み(音高)が異なっている。朝鮮の雅楽では,現在も編磬が用いられている。
執筆者: ところで磬は寺院でも使われ,楽器と同じく形も〈へ〉の字形のつりさげ用,すえおき用の鉢形,あるいは手もち用の引磬などがある。禅院儀式の合図や,読経の節をとる法具としての鐘にかわり,一般に磬子(けいす)と呼ばれて,大磬,小磬など,種々の鳴らしものの総称となり,今はむしろ,この意味にのみ用いられる。ただし,仏寺の法具としての磬子の起りは,古代インドの犍稚(かんち)にありとし,ガンガンひびく音声よりくるとする説もある。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「磬」の意味・わかりやすい解説


けい

東アジアの体鳴楽器。スタンド型の枠の中に石板をつり下げて角(つの)製の槌(つち)で打ち鳴らす。石板が1枚だけの場合には特磬、10枚以上をセットにした場合を編磬(ストーン・チャイム)と称する。中国、宋(そう)代に朝鮮半島に伝わり、儀式としての雅楽に使われたらしい。ソウルの国立国楽院に編磬が現存し、平壌(ピョンヤン)に複製がある。日本では奈良時代以後、特磬が仏具として使用されている。中国の湖北省博物館には、1978年に曽侯乙(そこういつ)墓で発掘された首長四足動物の形をした台脚をもつものが保管されている。

[山口 修]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「磬」の意味・わかりやすい解説


けい

中国の雅楽で用いられた体鳴楽器。日本では仏教楽器として用いる。平らな石片,まれに金属片の一端に孔をあけ,そこに紐を通して架につるし,角製あるいは木製の撞木 (しゅもく) で打鳴らす。石片が1個から成る特磬と,十数個から成る編磬 (へんけい) がある。石片の形はさまざまであるが,「へ」の字形が新しくて多い。日本へはこの形のものが仏教楽器として伝来された。日本の磬は銅,鉄の鋳製で,左右均等の山形をなし,中央に蓮華座の撞座がある。木製の磬架に吊り,普通,導師の座の右脇に置く。


きん

仏教で用いる体鳴楽器。磬 (けい) の唐音読み「きん」にあてた造字。銅,響銅 (さわり) などの金属製碗状の本体と,1本の打棒から成る。本体を台の上に置き,その縁を打棒で打鳴らす。大小さまざまのものがあり,名称もさわり,打鳴らし,おりん,なまりんなどの別称があるが,宗派によっては,その材質,大きさによって,これらの別称で区別する場合もある。携帯用の把手のついたものを,特に引磬 (いんきん) と呼ぶ。

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百科事典マイペディア 「磬」の意味・わかりやすい解説

磬【けい】

中国の打楽器。中国語ではチン。石片をつるして槌(つち)で打つもの。石片は〈へ〉の字の形をしている。1個だけつるしたものを特磬(トーチン),十数個が1組になっているものを編磬(ビエンチン)という。後者は旋律打楽器である。のち銅製に変わり,寺院で読経の合図に用いる仏具に転用された。孔雀(くじゃく)文磬など工芸としてすぐれたものも多い。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【鏧】より

…磬とも書き,鏧(磬)子(けいす∥きんす),打金(うちがね),銅鉢(どうばち),あるいは俗にザルガネなどともいう。仏教で用いる鳴物(楽器)の一種で,銅または青銅製で大型の鉢の形をしたもの。…

【楽器】より

…また,古代中国および現代の朝鮮半島にみられる編鐘は,音の高さの異なる鐘(しよう)を多数配列した,珍しい金属製打楽器である。 その他の打楽器として,比較的少数の例であるが,古代中国などの磬(けい)のように石を打つものがある。また,日本のすりざさらやメキシコのギロのようにこすって鳴らすもの,あるいはオセアニアなどに多いがらがらのように,堅くて小さなものを一度に鳴らすタイプの楽器も,広い意味で打楽器に含めてよいであろう。…

※「磬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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