1878-90年にドイツで実施された社会主義弾圧のための法律。ドイツの社会主義運動は1875年にアイゼナハ派とラッサール派が合同してドイツ社会主義労働者党(後のドイツ社会民主党)が結成されて以来,勢力の伸張が目ざましかった。ビスマルクはこれを危険視し,弾圧の機会をうかがっていたが,78年5,6月あいついで起こった皇帝狙撃事件を利用し,帝国議会にいわゆる社会主義者鎮圧法を上程し,同年10月強引に成立させた。この法律は社会主義的傾向をもつ政党や労働組合の結社・集会を禁止し,新聞・雑誌・ビラの印刷・配布を禁じ,〈危険分子〉を特定地域から追放する権限を警察に与えた。この法律の成立は,翌79年の保護関税法採択とともに,ビスマルクの国内政治が保守主義に向かう転機となった。彼は80年代には国家社会政策を実施し,〈飴と鞭〉の政策で労働者を社会民主党から切り離そうと努めた。この弾圧立法は社会民主党に一時打撃を与えたが,同党指導部と党員は強い団結と献身的な活動によって党勢を再び拡大させた。党の機関紙は外国で印刷されてひそかに配布され,労働組合も労働者の互助金庫や労働者教育協会などの形で再建された。こうして弾圧は失敗に終わり,1889年ルールに起こった大炭坑ストライキと翌90年総選挙での社会民主党の躍進(議席11→35)はついにビスマルクを辞職に追い込み,それとともに社会主義者鎮圧法も廃止された。
執筆者:木谷 勤
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1878年10月21日、ドイツで社会主義運動の弾圧を目的に公布された法律。かねて社会主義運動を敵視していたビスマルクは、同年、皇帝狙撃(そげき)事件が起こると、これを口実に議会の協力を得て同法を制定した。この法律は、「社会民主主義、社会主義もしくは共産主義的な活動」によって国家、社会秩序の転覆を図ろうとする結社、集会、印刷物、寄付金の徴集などを禁止したほか、特定地域の部分的戒厳令の施行、違反者の居住地制限などを規定していたので、社会主義運動は大きな打撃を受け、同法施行後の10年間に、1299の印刷物、332の団体が禁止された。しかし社会主義者の被選挙権を奪うことはできなかったから、ドイツ社会主義労働者党は地下活動によって党勢を拡大、90年2月の選挙では142万票、35議席を獲得した。そこでビスマルクは同法の強化を図ろうとしたが、議会が90年1月、同法の有効期限の延長を否決したため、同法は9月失効し、ビスマルク退陣の一因をつくった。
[松 俊夫]
『フリッケ著、西尾孝明訳『ドイツ社会主義運動史』(1973・れんが書房)』
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ドイツの社会主義運動弾圧法。正式名は「社会民主主義の公安を害するおそれある行動に対する法律」。社会主義運動の急速な成長に対し,ビスマルクは1878年同法を強行成立させ社会主義的な政党,労働組合,集会,出版を厳禁した。しかし運動はさまざまな形で続けられしだいに発展,社会民主党の議席も増大し,90年同法は廃止された。
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…とりわけ,プロイセンの反自由主義に鋭く反発するその指導者ベーベルとW.リープクネヒトが,独仏戦争に際し戦費協賛に保留,次いで反対の態度をとり,さらにパリ・コミューンに共感を表明したことは,ビスマルクに大きな衝撃を与えた。しかし,1878年の社会主義者鎮圧法,また83年に始まる一連の労働者保険も,労働者街とりわけ酒場での仲間づきあいや各種の文化(合唱,演劇など)・スポーツ団体を中心に独自の〈労働者文化〉と相互扶助の世界を形成しつつ発展するこの運動を抑え込むことはできなかった。 1873年に世界大不況が始まると,ドイツはそれまでの自由貿易政策から,79年,〈穀物と鉄〉(ユンカーとルール重工業)を軸とした保護関税政策に転換する。…
…
[1875‐1917年]
同党は1877年の帝国議会選挙で得票率9%強の勢いを示した。これに対してビスマルクは翌78年,社会主義者鎮圧法を制定するとともに,80年代には各種社会保険を導入して労働者を国家に統合しようとしたが,弾圧はかえって労働者の階級意識を育てる結果となった。合法活動の許されていた帝国議会選挙において,90年に同党は得票率では早くも第一党(19.7%)になっている。…
※「社会主義者鎮圧法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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