ある社会の構造なり秩序、あるいはその構成要素が、なんらかの内部的または外部的事情によって、部分的にか全体的に、また短期的にか長期的に変化することを意味する。社会構造は互いに依存しあい、ときに対立する諸要素の相対的な均衡にすぎないから、絶対不変ではありえず、そのどの部分、どの要素におこった変化も他に波及し、早晩、変動を引き起こす。構造と変動はいわば盾の両面であり、構造のあるところかならず変動がある、といってよい。
[濱嶋 朗]
現代のように社会が複雑かつ巨大になると、社会変動も甚だ多種多様な様相を帯びてくる。その原因としては、変動の動因が単一ではなく複数であること、さまざまな要因が一定方向にではなく異なった方向に働くこと、諸要因の間やそれらと社会構造全体との間にさまざまな関連があること、変動を担う人間の側に予測し統制しにくい主体的条件が作用していること、などによる。
(1)社会変動は外部的要因によることもあれば、内部的要因によることもある。ただし、国際的交流の激しい現代では、内部的か外部的かの区別はつけにくい。外圧による開国と維新、異文化との接触による文化変容、勝敗の別はあれ戦争による激変、革命などがここに含まれる。
(2)変動は部分的・局部的なこともあれば、全体的・全面的なこともある。革命は既成秩序のラディカルな全面破壊であるが、改革は既成秩序の枠内での部分的・漸進的修正の域を出ない。今日とくに注目される変動過程としては、産業化(技術進歩に基づく生産様式の高度化)、管理化=官僚制化(組織の巨大化・集権化)、都市化(人口の都市集中、都市的生活様式の浸透)などがあげられよう。これらの一連の過程が戦後の社会変動の主流をなし、現代の高度産業社会を形成したことはいうまでもない。ただし、それらの変動過程によって社会構造そのものの基本的変化はおこらなかった。
(3)これらの急激な変動過程が、社会生活を混乱に陥れ、生活問題その他の病理的事態を生じていることも否定できない。急激な産業化(高度経済成長)に伴う環境破壊・公害の深刻化、管理化=官僚制化による疎外の深化、都市化に付随する地域の解体などがそこに含まれる。
[濱嶋 朗]
以上のような多様な社会変動は何が原因でおこったのだろうか。
(1)環境決定論者によると、気候、風土、天然資源などの自然的動因が社会変動を引き起こすというが、これは誤りであって、自然的条件は人間の主体的なあり方に依存する受動的要因であるにすぎない。人間の内なる自然である生物学的要因についても、これとほぼ同様のことがいえる。
(2)これに関連して、人口条件を重視する立場がある。デュルケームは、人口の量と密度が分業や社会の発達をもたらすという。確かに人口の増大や集中が社会の変動に影響するのは事実である。平均余命の伸びや老齢化が高齢化社会の諸問題を切迫したものにしている。しかし、産業の発達、生活水準の上昇などといった社会的諸条件の変化が人口の増減、人口構成に変動を生じさせるのであって、人口的要因はむしろ従属変数とみなすほうが妥当である。
(3)社会学の祖A・コントはかつて社会の進歩は人間知性の進歩によるものとみ、M・ウェーバーはプロテスタンティズムの宗教倫理が資本主義精神にみられるような合理的生活態度をもたらしたと主張した。知性や理念、倫理やエートスといった観念的因子が、人間に目標を示し、人間を内側から突き動かして歴史を変革する主体的要因として働くことは否定できないが、それだけでは変革要因として働かない。一定の外的・内的利害状況にある人々がそれに共鳴し、方向づけられる必要がある。
(4)物質文化(とくに技術とその発明)が社会を変えるうえで主導的な役割を果たすとする説がある(オグバーン)。発明による変動テンポは精神文化や制度的文化よりも物質文化のほうが速く、そこに文化のずれを生じ、遅れた非物質文化は物質文化に追随する形で変化する、というわけである。しかし、技術(生産力)の発達は真空のなかで行われるのでなく、一定の生産関係を前提とし、そのなかで行われることに注意したい。
(5)最後に、唯物史観によると、社会変動の究極の動因は生産力と生産関係との矛盾にあるという。生産力が上昇する過程で、かつては生産力の発達を促していた生産関係がかえってその桎梏(しっこく)となり、やがて革命を通じ、土台ばかりでなく、その上にたつ上部構造を含めた社会構成体の崩壊と、より高次の水準への発達を避けがたくする、と主張される。もちろん、社会変動は単一の要因(たとえば生産力の発達)によって引き起こされるのではなく、同時に以上にあげた種々の要因によってもたらされる。
[濱嶋 朗]
社会の変動は、長期的にみると、一定の方向をもち、いくつかの段階をたどる。これを変動の様式というが、循環論と段階論に大別される。
(1)循環論は社会の発展を認めず、歴史は繰り返すとして、循環的反復を主張する(パレートのエリート周流論)。
(2)これに対し、社会変動の過程は進歩または進化の方向をたどる、とする考えがある。社会進歩の立場はフランス啓蒙(けいもう)思想に由来し、社会進化の立場はダーウィンの生物進化論の適用による。コントは、人間精神が神学的→形而上学的→実証的という進歩の過程をたどるように、社会も軍事的→法律的→産業的という進歩の過程をたどると主張した(「三段階の法則」)。H・スペンサーによる軍事型社会から産業型社会への段階的進化の図式は、不確定的な同質性から確定的な異質性へという生物進化の法則を借用したものである。
(3)なお、ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへというテンニエスの有名な段階論があげられる。これは人間の結合様式(社会関係)の変動を説いたものではあるが、その基底にある現実的諸要因と関連づけていないため、社会の変動様式の説明としては不十分である。
(4)唯物史観の発展図式は、生産力と生産関係との矛盾・照応の法則を基軸に、社会構成体の発展段階を原始共産制社会→古代奴隷制社会→中世封建制社会→近代資本主義社会→社会主義社会というように定式化した。ただし、この発展段階は必然的な継起の関係であって、歴史はかならずこの段階を通過するというように解釈すべきではない。現実には多様な発展のコースがあるからである。
(5)この唯物史観に原理的に対立するのが近代化論(とくにその実質的過程をなす産業化論)である。ロストウの経済成長段階説はその代表例であって、伝統的社会→先行条件期→離陸期→成熟への前進期→高度大衆消費時代という5段階を区別し、最後の段階は社会体制のいかんを問わず先進産業社会を特徴づけるものと主張し、収斂(しゅうれん)理論を提唱した。
[濱嶋 朗]
『富永健一著『社会変動の理論』(1965・岩波書店)』▽『福武直他編『講座社会学8 社会体制と社会変動』(1958・東京大学出版会)』▽『W・W・ロストウ著、木村健康他訳『増補 経済成長の諸段階』(1974・ダイヤモンド社)』
社会や社会現象の変化をあらわす言葉は多いが,端的にいって,社会変動とは社会構造の変動を意味している。要するに構造変動である。その場合,社会組織や社会制度といった巨視的な構造のレベルで生ずる変動が重要である。たとえば,技術革新の普及により企業組織の人員配置に大きな異動がおこり,専門職への需要が増大して,教育制度や雇用制度が変動していき,さらに階級構造の変動へ波及していくというのは,社会変動の具体的な過程の一例である。このような構造変動を意味する社会変動とは区別されるが,しかし近縁の概念として,人口や社会的諸資源のストックおよびフローの変化(ふつうには増大)を意味する社会発展social developmentや社会成長social growthといった概念がある。
社会変動に関する諸学説は,それぞれが提唱された時代と社会の状態をよく反映している。19世紀初頭には,産業革命による産業社会の実現をめざして,サン・シモンとオーギュスト・コントは観念の段階論を唱えた。すなわち,神学-形而上学-実証主義という三段階論がそれである。神学とは教条的・独断的な観念であって,軍事的・支配的な封建体制と対応していた。実証主義とは観察や実験をもとに事物をつくり社会を組織していくという観念であって,平和的・管理的な産業体制に対応するものである。そして封建体制から産業体制への移行を仲立ちするのが,形而上学という啓蒙主義的観念に導かれた市民革命の体制だとされた。まさに産業革命を推進しようという熱意にもえた社会変動論であった。
しかし,19世紀中葉には経済恐慌と社会問題と階級対立といった状況がたちあらわれて,マルクスの史的唯物論が時代をリードする変動論として提起された。すなわち,生産力が発展してきて,生産関係(土台)と上部構造とからなる社会構造にもはや対応しなくなるとき,社会構造は徐々にか急激にか変動せざるをえないとし,資本主義から共産主義への段階的移行の必然性が主張された。つまり社会発展が構造変動をひきおこすという考え方である。
以上のような段階論的な見解に対して,社会学の変動論においては,ある社会状態から他のそれへ変化していくという2極間の変動趨勢に注目する変動論が有力であった。フランスの社会学者デュルケームは,人々の生活が等質的であるがゆえに結合しているような小環節よりなる社会から,人々の生活が異質的であるがゆえに相互補完的に結合する分業社会へと変動すると主張した。そして前者を機械的連帯の社会,後者を有機的連帯の社会と名づけて,その間の変動が人口増大の圧力によっておこるとみた。またM.ウェーバーが世界史の合理化という視点から社会変動論を唱えたことは有名である。このような2極間の変動論と社会進化論とが結びつくと,社会が構造分化と統合を通じて変動するという見解が出てくる。分化と統合をくりかえして構造が複雑化していき,社会全体の適応力が増大していくとみる考え方は,社会学には古くからみられるが,近年の代表者はパーソンズである。以上のような諸学説は,成熟した産業社会に至る産業化および近代化に関心をもつものであった。ところが,いまや脱工業社会への移行が問題となっている。社会変動論においても,産業化の延長線上に,産業化そのものの否定と批判という動きが出ることに注意しなければならない。
もし社会成員たちが生活上の欲求を満たし,しかも変化する環境に対して社会全体が適応できるように,社会構造がつくられているならば,その限りで社会構造はうまく機能しているわけだから,変動する理由はない。しかしながら,(1)社会をとりまく国際環境が激変したり,(2)人口や技術やその他の社会的資源に大きい変化が生じたり,あるいはまた(3)社会成員たちの価値観の変化によって欲求の水準がいちじるしく上昇したりする場合には,既成の社会組織や社会制度といった社会構造そのものが逆に制約になってしまい,国際環境への不適応,社会的混乱,人々の欲求不充足といった事態がひきおこされる。これは社会の危機である。それに対して,人員の再配置や資源の再配分,あるいは社会構造の一時的な応急の変化によって,切り抜けようとする動きが出てくる。たとえば,戦時動員,人心の操作,戒厳令の発動,時限立法などがそれである。しかし応急措置が功を奏さないならば,すでに制約となっている社会構造そのものを,なんらかの形で変革し再構造化せざるをえない。そのさい社会構造の内部にある矛盾や緊張源を解決することによって再構造化をはかることが,社会変動の計画にとって戦略的に重要な課題になる。ただし現実の社会変動は計画と自然発生的試行との間を揺れる。
執筆者:塩原 勉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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