社会的成層(読み)しゃかいてきせいそう(その他表記)social stratification

日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会的成層」の意味・わかりやすい解説

社会的成層
しゃかいてきせいそう
social stratification

成層とはもともと地質学上の概念で、地層が古い年代順に上下に重なり合う状態(およびその形成過程)をいうが、これが社会現象に転用されて、ある社会を構成する人々がなんらかの特性財力権力威信など)に関して上下・優劣の社会的地位に区分される過程、とくにその結果としての状態をさすのに用いられる。社会的地位を決定する指標または特性は、近代以前ではおもに家柄財産など帰属本位の要因であったが、近代以後になると個人の資質・能力や職業(およびそれに伴う収入、地位)といった業績本位の要因にとってかわられる傾向がある。成層化(成層形成)の過程はさまざまであるが、ごく抽象的に考えれば、どの社会にも分業に基づく役割(職業的役割)の分化がみられ、それに応じて社会的地位の分化が認められる。生産力が発達し分業が進むにつれて、さまざまな社会的地位を占有する人々の集群が形成され、ほぼ同じ社会的地位を占有する人々が一つの階層を形づくりながら、いくつかの階層がなんらかの仕方で上下に積み重なり合い、重層的な状態を示すようになる。社会のこのような重層的または段階的な状態ないしは構造を社会的成層とよび、それを構成する各層を階層という。

 この意味での社会的成層は、マルクス主義階級理論とは原理的に対立するアメリカ社会学の成層理論によって取り上げられてきた。成層は地位の上下・優劣の差などに基づく以上、不平等の体系であるが、この不平等は、マルクス主義におけるように生産手段の所有・非所有という物質的基礎に基づいて生じるのではなく、地位のもつ機能が重要であるかないか、希少価値をもつかもたないか、といった観点から説明されることが多い。また、社会が分業体系である以上、さまざまな地位や役割への社会的分化は機能的にも構造的にも不可避かつ不可欠であり、また、互いに他を差別的に評価する傾向が人間性からなくならない限り、このような社会的に分化した地位に対して差別評価がなされることも避けられない。

 したがって、社会的分化と差別評価の相互作用の所産としての成層は、原始共同体を除くなら、有史以来のあらゆる社会の構造的な特質をなし、社会が残存するのに必要不可欠な機能要件を充足するためのメカニズムになる。古代インドのカーストも中世封建社会の身分も、近代資本主義社会の階級も、すべて成層の特殊形態なのであり、成層はこれらの下位概念を包括する上位概念である、と主張される。つまり、社会的成層は歴史を越え体制を越えた抽象的・普遍的概念であり、どの社会も成層化を免れない。だから、社会主義社会もそれが分業に基づく役割や地位の分化を伴う社会である限り、無階級社会ではありえず、成層状のピラミッド型構造をとらざるをえない、ということになる。これは、階級を歴史的・過渡的な現象とみ、生産手段の社会化によって階級を廃絶できるとするマルクス主義理論とは、根本から対立する立場である。

 そのほかにも、成層は職業その他任意の指標によって人為的に類別され格づけられた段階区分であり、それも連続的な威信序列における上下関係であるから、生産手段の所有・非所有に由来する搾取・被搾取、支配・被支配といった敵対的階級関係を伴わず、むしろ階層間の関係はどちらかといえば順応的なものであって、上層の生活様式や価値観はそれ以下の層によって受容され、階級闘争や社会革命ではなく相互的な同化や現状維持をもたらす方向に働く、とされる。

[濱嶋 朗]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「社会的成層」の意味・わかりやすい解説

社会的成層
しゃかいてきせいそう
social stratification

社会成員のもつある種の属性を基準に,社会的階層の配列構造として社会をとらえたもの。マルクス主義的な階級論とは別の次元で(→マルクス主義),第2次世界大戦後のアメリカ社会学に代表される階層構造論。従来の階級に代えて,階層または階層化の概念をもたらし,また従来の抽象的概念分析を具体的な実証研究によって代置し,なんらかの量的(あるいは量化しうる)基準に基づいて階層区分を行なう。具体的には,外部の第三者(たとえば研究者)によって客観的に判別される各人の職業,職業上の地位,収入,財産,消費水準,生活様式などの差異によってとらえる。1950年代初頭から,国際社会学会を中心に社会的成層と移動の研究が行なわれ,日本でも社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)が行なわれている。

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