企業が従業員の委託を受けて給与の一部を預金として預かること。労働基準法(昭和22年法律49号)は、「使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない」(18条1項)として、企業が強制的に従業員に預金させる行為を禁止している。しかし、企業による任意の貯蓄金管理、つまり社内預金については、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出」(同条2項)ることなどを要件として認めている。その際の労使協定には、次の事項が規定される必要がある。(1)預金者の範囲、(2)預金者1人当りの預金限度、(3)預金の利率および利子の計算単位、(4)預金受入れと払戻し手続、(5)預金の保管方法である。
その他の労働基準法の要件としては、貯蓄金(預金)の管理に関する規定を定め、これを労働者に周知させるため、作業場に備え付けるなどの措置をとらなければならない(同条3項)し、また、企業は従業員の預金の管理を行う場合には利子をつけなければならないとしている(同条4項)。厚生労働省令(1999年4月施行)では、使用者が従業員の預金を受け入れる場合の利息の最低限度を年5厘(0.5%)としており、2008年(平成20)8月現在これが適用されている。ちなみに最高限度の規定はない。また、労働者の請求があったときには遅滞なく社内預金の返還をしなければならない(労働基準法18条5項)。
社内預金のおこりは、明治・大正期に、繊維産業において、従業員の足止め策として強制的に行われた預金制度に求めることができる。第二次世界大戦後から高度成長期を通して、社内預金が著しく普及した要因としては、(1)企業は不況期には賃金の現金支払いを節約でき、好況期には安定した設備投資資金の原資となったこと、(2)従業員に対しては、銀行金利よりも社内預金金利を高く設定したり、社内預金者には企業の住宅資金貸付を実施することなどにより、従業員に対する福利厚生的役割をもたせることができたことなど、企業、従業員にメリットがあったことがあげられる。やがて、高度成長期から安定成長期に移行し、金融の自由化・国際化が進行するにつれ、社内預金に対する需要は企業、従業員双方からしだいに弱まってきた。それには次のような背景がある。まず、経済成長率の低下に伴い、企業の資金需要が相対的に減退したうえに、企業の資本蓄積が進行していたので、企業が社内預金に依存する誘因は小さくなり、その金利も引き下げられたことである。次に、金融自由化・国際化が進展するにつれ、個人の金融資産選択が多様化したことなどにより、従業員にとってのメリットも薄れてきたことがあげられる。
[太田和男]
労働者の貯蓄金を使用者が受け入れ管理するもので,労働基準法によって規制されている。同法18条は,まず〈使用者は労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ,又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない〉と規定し,強制貯金を禁止したうえで,任意貯蓄(いわゆる社内預金)について次のように定めている。使用者が労働者の貯蓄金を管理する条件として,使用者は貯蓄金管理に関する労使協定を結び,行政官庁に届け出なければならない,また使用者は貯蓄金管理に関する規定を定め,労働者に周知させねばならないとし,また社内預金には〈命令で定める利率〉による利子以上の利子をつけなければならない。
社内預金制度は第2次大戦後の高度成長期に著しく普及した。その要因としては,(1)社内預金が安定した経営資金の原資となったこと,(2)市中金利よりも高い利息をつけることにより,また住宅貸付資金制度と結びつけることにより,労働者に対する福利厚生的役割を果たしたこと,(3)社内預金によって愛社精神を高め労務管理上の効果が期待できたことがある。一方,社内預金制度が普及し預金額が増加するのに伴い,その安全性,銀行預金との金利バランスが問題になった。企業が倒産した場合には預金の返還不能となるおそれがあり,また社内預金金利は銀行の預金金利を大幅に上回っているので金利体系をゆがめることになる。そこで1966年に労働基準法施行規則が改正されて預金保全の細目が定められ,社内預金の原資は賃金に限定されること,利率は5年もの貸付信託の利回りを目安にして高利率の排除に努めること,等々の改正が行われた。
執筆者:中島 将隆
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…ただ例外として,税金や社会保険料のように法令で賃金からの控除を定めている場合と,当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合,それがないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定で,賃金からの控除を認めることができる。たとえば,購買代金や社内預金の賃金からの控除を行うときがそれである。問題になるのは,賃金の過払いが生じた場合どの時点で調整するかである。…
※「社内預金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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