神統記(読み)シントウキ(その他表記)Theogonia

デジタル大辞泉 「神統記」の意味・読み・例文・類語

しんとうき【神統記】

原題、〈ギリシャTheogonia》紀元前8世紀ごろのギリシャの詩人ヘシオドス代表作。世界の始まりと神々の系譜テーマとする、1022行の叙事詩

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改訂新版 世界大百科事典 「神統記」の意味・わかりやすい解説

神統記 (しんとうき)
Theogonia

前700年ころのギリシアの詩人ヘシオドスの作品。原題の《テオゴニア》は〈神々の誕生〉の意。ホメロス叙事詩風の詩形と措辞によって,カオス(〈虚空〉あるいは〈混沌〉),エロス(〈愛〉),ガイア(〈大地〉)の誕生から語り起こし,母神ガイアから生まれた男神たちの間に3度くりかえされる権力争奪を語り,最後に勝利者となったゼウスが,天上・地上・地下の世界に新しい秩序を樹立するまでの経緯を1022行にまとめたもの。ギリシア最古の宇宙誕生神話を数百柱の神々の誕生譚の形によって語るが,系譜を整理して一編の物語と化していく筋立てウラノス(〈天空〉),クロノス,ゼウスの3代の男神たちの抗争と交替劇である。この筋立てには古代バビロニアやヒッタイトなどオリエント文化の宇宙誕生神話からの影響の跡が指摘されている。

 本書に登場する神々の素性は雑多であり,夜の女神の子どもたちのように30の現世諸悪の名称を擬人化したもの,大洋神の子どもたちのようにナイルやドナウなど現実の大河25流の名前,またゼウスの妻女となる10柱の女神たちとおのおのの子どもたちのように,現実に各地に存在した祭祀神たちと共通の名称を有するものもある。しかしここにギリシア神話の神々,英雄,名婦たちが全員網羅されているわけではなく,天地誕生とゼウスの秩序樹立の物語に直接関与しない伝説群や神話群は,本書の続編《名婦の系譜》(断片的に伝存)にまとめられている。今日の視点からうかがえば,《神統記》の基本構想は,1柱の大地母神が支配的影響力をもつ神族間の中での男神どうしの内乱が,母神に代わって強圧的支配力をもつ男神の登場と,一夫多妻制による妻母神たちの権力分散化によって,最終的に鎮圧される過程をとらえており,古代ギリシアの親族構成の変化や社会変動の推移について示唆する点も多い。なお本書に付されている序詞は,詩神ムーサ(ミューズ)らへの賛歌を主体とするが,ヘシオドス自身が女神らの導きのもとに詩人として開眼した体験を告げる一段を含み,古代ギリシア詩人の自己認識を尋ねる上での貴重な資料となっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「神統記」の意味・わかりやすい解説

神統記
しんとうき
Theogonia

古代ギリシアの詩人ヘシオドスの叙事詩。ヘリコン山でミューズの霊感を受け、詩人の自覚を得た彼の最初期の作品。この作品の主題は、オリンポスの神々、地方の神霊のみならず、海、山、天、星辰(せいしん)、さらに苦痛、労苦、飢餓、争いなど、人間に強い影響を及ぼす無数の神々の起源と系譜、いいかえれば、宇宙の始源カオスからゼウスの支配する秩序世界成立の全過程を歌い、語り、説き明かすことにあった。この作品は神々の生成論(テオゴニアー)であるとともに宇宙生成論(コスモゴニアー)としての一面をもち、後のギリシア哲学の形成にとっても重要な意味をもつ。詩人の独創的思索力をうかがわせるが、古代東方思想の影響も多いと考えられている。

[廣川洋一]

『廣川洋一訳『神統記』(岩波文庫)』

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「神統記」の解説

『神統記』(しんとうき)
Theogonia

古代ギリシアの詩人ヘシオドスの作。1022行からなる六脚韻の叙事詩で,諸伝承を整理,集成して世界の誕生と神々の系譜とをうたった。その宇宙生成論はのちの自然哲学に影響を与えた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「神統記」の解説

神統記
しんとうき
Theogonia

古代ギリシアの詩人ヘシオドスの作品
1022行からなる六脚韻 (きやくいん) の叙事詩で,古代ギリシアの神々の系譜をうたいあげた詩論。

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世界大百科事典(旧版)内の神統記の言及

【ウラノス】より

…世界の最初の支配者。ヘシオドスの《神統記》によれば,大地女神ガイアの子として生まれた彼は,ガイアとの間に12柱のティタン神その他の子をもうけたが,それらの子すべてを大地の奥底タルタロスに押し込めたため,ガイアから父神の非道に報復するよう説得された最年少のティタン神クロノスによって,大鎌で陽物を切り落とされ,天地の支配者の地位を追われたという。【水谷 智洋】。…

【ギリシア神話】より

…ギリシア最古の文献でもあるホメロスの叙事詩《イーリアス》《オデュッセイア》。ついで神々の系譜の総合的整序の企てともいうべきヘシオドスの《神統記》と《農と暦(仕事と日々)》。諸神に捧げられた《ホメロス賛歌》。…

【詩】より

…これはトロイア戦争を題材とする膨大な叙事詩群の一部をなすもので,紀元前8世紀ごろ成立したとされるが,実際にはそれ以前から長期にわたって吟遊詩人によって語り伝えられていたものらしい。これら英雄や神々の物語とは別に,庶民の日常生活に根ざしたヘシオドス(前700ごろ)の《農と暦》や,神話伝説を整理した《神統記》もある。抒情詩を代表するのはアルカイオスと女流詩人サッフォー(ともに前7世紀)で,ついでアナクレオンが出るが,いずれも古くから伝わる独唱歌の様式を踏んでいる。…

【スフィンクス】より

…これらの神話的イメージは一方ではライオンの変形として東方に伝播し,ついには日本の唐獅子となり,他方では有翼の神として各種の天使像,さらには東洋の飛天像にも影響を及ぼした。 他方,ギリシアの伝説ではスフィンクスを蛇女エキドナと犬のオルトロスの子とするもの(ヘシオドスの《神統記》),テーバイ王ライオスの娘(庶子)とするものなどがあり,最も有名なものはオイディプス伝説の一部を成している。これによるとスフィンクスは女神ヘラによってテーバイ西方のフィキオン山におかれた。…

【ヘシオドス】より

…彼自身の言葉によれば,父は小アジアのアイオリス人の植民地に住み,船を操り貿易を業としたが,のちボイオティアの寒村アスクラに移り住み,ヘシオドスとペルセスPersēsの兄弟はそこに生育した。《神統記》序詞によれば,ヘシオドスがヘリコン山の山腹で羊飼いの暮しをしていたとき詩神(ムーサたち)が現れ,彼に詩人になるようにと月桂樹の杖を与え,声と言葉を吹きこみ,人間の来し方行く末の偉業をたたえ,とこしえなる神々の族に賛美を尽くすようにと命じたという。ギリシア最古の天地誕生の歌であり神々の系譜詩である《神統記》はこうして生まれた。…

※「神統記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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