日本大百科全書(ニッポニカ) 「租税国家」の意味・わかりやすい解説
租税国家
そぜいこっか
Steuerstaat ドイツ語
国家の経費をまかなう収入を原則として租税で調達する国家をいう。R・ゴルトシャイトやJ・A・シュンペーターなどのドイツ財政社会学者が定立した概念。封建制末期から資本主義初期へかけて、国家収入は封建的土地所有・特権に基づく収入、あるいは国王・領主の財産運用による収入に依存していた。こうした国家と個人、公と私の未分離な状態(これを有産国家という人もいる)に対して、これを分離し、私有財産制度のもとで生産された商品=貨幣から国家権力により徴収された租税をもって国家運営を図るのが租税国家であり、そこでは官業等の財産運営は否定される(無産国家)。したがって資本主義の自由主義段階における近代国家は租税国家にほかならず、これを古典派経済学の立場から確認したのがA・スミスであり、ドイツ財政学の立場から遅ればせに追認したのが租税国家観であったといえる。
第一次世界大戦以降、ゴルトシャイトとシュンペーターとの論争のなかで租税国家論と財政社会学は深められたが、帝国主義段階においては公債収入・官業収入に依存する度合いが高まらざるをえず、負債者国家ないし公債国家に転化するであろうという財政社会学の洞察は的を射ていたといえよう。
[一杉哲也]
『J・A・シュンペーター著、木村元一・小谷義次訳『租税国家の危機』(1983・岩波書店)』