訴訟上、裁判所が、ある事実の存否が確定できない場合に、当事者の一方に帰せられる危険または不利益。挙証責任ともいう。
[内田武吉]
民事訴訟法は弁論主義をとり、判決の基本となるべき訴訟資料(事実および証拠)の提出責任を当事者に課している。したがって、訴訟資料が不足する場合、それによって生ずる不利益は、当然に当事者が負担することとなる。しかし、その不利益は原告あるいは被告の一方だけに負わしめるべきではない。そのため民事訴訟においては、判決のために必要な事実資料を提出すべき主張責任と、その証明に必要な証拠資料を提出すべき立証責任とを当事者に課して、それと同時に衡平の原則を背景とする一定基準によって、この責任を原告および被告に分担させている。これを主張・立証責任の分配という。この場合の責任の分配とは、訴訟資料の欠缺(けんけつ)や不足による不利益の帰属すべき当事者を定めることを意味する。たとえば、貸金請求事件において、債務を弁済した事実は、被告に主張および立証責任がある。それゆえ、弁済の事実が主張され、かつ十分に証明されなければ、弁済されなかったものと判断される。要するに、請求原因を構成する事実(実体法が、権利または法律関係の成立について定めた要件を充足する事実)については、原告に主張・立証責任があり、それ以外の事実による当該権利または法律関係の不発生、変更もしくは消滅については、すべて抗弁として、被告に主張・立証責任がある。
[内田武吉]
刑事訴訟では被告人は有罪とされるまでは無罪と推定される。被告人が特定の犯罪について有罪であることを、厳格な証明により合理的な疑いを超える確信を裁判官に得させる程度まで立証する責任(実質的挙証責任あるいは客観的挙証責任)は、原則として検察官がこれを負担する。すなわち、証拠調べの結果、要証事実が存否不明なときは、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従って無罪とされる。例外的に被告人に挙証責任が転換する場合があるとされ、たとえば刑法第207条(同時傷害の特例)における同時傷害ではない事実の証明や刑法第230条の2(名誉毀損(きそん)に関する公共の利害に関する場合の特例)における適示事実の真実性の証明などである。また、訴訟のそれぞれの段階で提出すべき証拠を提出しないことから事実上生じる不利益の負担を、形式的挙証責任あるいは主観的挙証責任という。この意味の挙証責任は、訴訟の進展に伴って一方当事者から他方当事者へと随時転換することになる。
[内田一郎・田口守一]
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…裁判の前提となる事実について,証拠調べが行われたが,その事実があったかなかったかがわからない場合(真偽不明という)に,裁判を拒否することはできないので,これを可能にするためのルール,およびそのことによって当事者がうける敗訴の危険・不利益を証明責任という。従来は,この危険を避けるための当事者の立証活動に着目して,挙証責任または立証責任という言葉が使用されていたが,現在では真偽不明という結果に着目した証明責任という言葉が多く使われている。たとえばAがBに金を貸したが返さないのでこれを支払えとBを訴えた場合,金を貸したかどうか明らかでない場合は,この事実がなかったように取り扱われAは敗訴となる。…
※「立証責任」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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