改訂新版 世界大百科事典 「等張力性収縮」の意味・わかりやすい解説
等張力性収縮 (とうちょうりょくせいしゅうしゅく)
isotonic contraction
筋肉の収縮中筋肉に加わっている力(あるいは荷重)が一定に保たれている場合の筋肉の収縮をいう。一般には,筋肉に一定のおもりをかけておき,筋肉がこれをもち上げて短縮するときの収縮をいうが,厳密にはおもりの慣性のため荷重一定という条件がみたされない。したがって,実際に等張力性収縮を行わせるには実験装置の慣性をなるべく小さくしなければならない。この場合,筋肉の短縮は筋肉の一端を固定し,他端をレバーに接続して,レバーの動きで記録する方法が用いられる。等張力性単収縮(単収縮とは単一の活動電位によって起こる収縮をいう)や強縮は,荷重をもち上げつつ短縮する収縮期と,これにつづく弛緩期からなる。骨格筋の等張力性収縮のさいの短縮速度は収縮期のかなりの部分でほぼ一定であり,荷重が小さいほど短縮速度は大きい。荷重ゼロのさいに短縮速度は最大となる。等張力性収縮の短縮速度は,筋フィラメント間の滑りの速度を反映している。筋肉の最大短縮速度から筋フィラメント間の滑りの最大速度を計算すると,カエルの骨格筋で0℃で毎秒約1μmである。短縮速度は,温度が10℃上昇すると2~3倍に増大する。これは,筋フィラメント間の滑りが2種の筋フィラメントを構成するタンパク質,アクチンとミオシン間の化学反応により起こることを示している。温血動物の骨格筋は,動物体の速い運動に関与する白筋と,体の姿勢の保持に関与する赤筋に大別される。白筋は赤筋よりも最大短縮速度が大きい。白筋を支配する運動神経と赤筋を支配する運動神経を切断してつなぎかえると,白筋の最大短縮速度は減少し赤筋のそれは逆に増大する。これは,運動神経が筋肉の収縮・弛緩を調節するばかりでなく,収縮反応そのものをも決定する働きがあるためである。等張力性収縮には,あらかじめ筋肉に荷重をかけておいてひきのばした状態から短縮させる方法(前荷重法)と,筋肉の発生する張力が荷重と等しくなったのちに短縮を起こさせる方法(後荷重法)とがある。後者は荷重によって筋肉の初期の長さが変化しないのが特徴である。
一方,筋肉の両端を固定して短縮できないようにして収縮させたとき,このような収縮を等尺性収縮isometric contractionという。張力は一般に,張力トランスデューサーにより電気的変化として記録される。骨格筋が等尺性強縮中に発生する張力は,筋肉が生体内にあるときの長さ(生体長)のとき最大で,筋肉がこれより長くなっても短くなっても減少する。筋肉の最大等尺性収縮張力は筋肉の断面積に比例し,ヒトの骨格筋で1cm2あたり約5kgであるが,二枚貝の殻の開閉にあずかる貝柱の筋肉は1cm2あたり10kg以上の大きな張力を発生する。昆虫類の骨格筋の単位断面積あたり張力はヒトよりも小さいが,昆虫は一般にその体に比して運動能力がすぐれており,たとえばノミはその体の何十倍もの高さに跳躍する。これは,筋肉の発生する張力がそのサイズの2乗に比例するのに対して体重はサイズの3乗に比例することによる。たとえば,ある動物の体長が1/10に縮まったと仮定すると,筋肉の発生する力は1/100に減少するのに対して体重は1/1000に減少するので,見かけ上筋肉の性能がよくなるのである。
等尺性収縮は生体内ではしばしばみられる。たとえば,手で物をしっかり握っているときや,相撲で力士ががっぷり四つに組んで動かないときの筋肉がそうである。これに対して,等張力性収縮は生体内の筋肉ではほとんどみられない。骨格筋が身体の関節を動かしているときの収縮は,多くの場合,慣性の大きな荷重に対する短縮あるいは徐々に増大していくような荷重に対する短縮と考えられる。
→筋収縮
執筆者:杉 晴夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報