改訂新版 世界大百科事典 「紋羽病」の意味・わかりやすい解説
紋羽病 (もんぱびょう)
果樹などの病気。これにかかった植物は地上部全体に生気がなく,葉は黄褐色に変わって脱落し,根を掘ってみると,白色または紫色のカビが網目状におおっている。白紋羽病white root rotと紫紋羽病violet root rotとの2種類があるが,地上部だけをみてこの二つを見分けることはむずかしい。根をおおった菌が組織を侵し,養分の吸収,水分の上昇を妨げるので植物全体が枯死する。白紋羽病は,子囊菌Rosellinia necatrix,紫紋羽病は,担子菌Helicobasidium mompaが病原菌である。いずれも土壌中の植物残渣上で腐生性の強い土壌病原菌である。果樹類を中心に紋羽病の被害が大きいが,日本では紫紋羽病が明治年代にクワで発見され,白紋羽病はやや遅れてブドウ,チャ,クワで報告された。一般に排水のよい既成の平たんな果樹園には白紋羽病が多く,開墾後間もない新しい傾斜地には紫紋羽病が多い。既成果樹園で白紋羽病が多いのは,森林土壌では多くの拮抗菌のために生育が抑えられていた白紋羽病菌が,細菌の多い熟畑土壌で活発な増殖をつづけるためと考えられている。また木本植物の小枝のようないわゆる粗大有機質を施して通気がよくなり,しかも適度の水分が保持されるような場合にも白紋羽病が多くなる。紫紋羽病は石灰を多用して熟畑化をはかると減少する傾向にある。両紋羽病を比較すると紫紋羽病の方が根腐れの進行は緩慢である。リンゴ,ナシ,ウメ,クワ,マサキなどの木本植物のほか,サツマイモ,アスパラガスなどで紋羽病が問題となる。被害株はまず助からないので,早く抜き取り,そのうえで深耕整地してクロルピクリンで土壌消毒を行う。
執筆者:寺中 理明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報