日本大百科全書(ニッポニカ) 「納税者番号制」の意味・わかりやすい解説
納税者番号制
のうぜいしゃばんごうせい
納税者本人確認および名寄せのために、すべての納税者に身分証明番号を交付する制度。税務当局は、情報申告制度、法定資料制度とよばれる、納税者が行う取引等の相手方から利子・配当等の支払調書、給与の源泉徴収票をはじめとする資料情報の提出を受けており、それを手掛りとして納税者の申告内容を審査している。しかし、この仕組みが有効に機能するためには、これらの資料に記載された納税者の名義が真正であることが確保され、資料が個々の納税者ごとに整理(名寄せ)されることが不可欠であり、個々の納税者に識別可能な納税者番号があれば、次のような機能を果たすことができるようになる。
(1)納税者番号を取引の場において相手方に告知することを義務づけることによって、真正な名義の使用を担保できるようになる。
(2)税務当局が収集する資料情報の数量は膨大なものとなっており、今後も増加する見通しのなかで、これらの資料情報に納税者番号の記載を義務づけることにより、その整理を機械的、効率的に行うことが可能となる。
(3)納税者番号制度を利用して各種資料情報の突き合わせ・名寄せを効率化することにより、適正で公平な課税と税務行政の効率化に資することができる。
また、税務当局の立場からのみならず、納税者の立場からも納税者番号制度は重要とみなされてきている。現行税制は申告納税制度を基本としており、納税者番号制度により納税環境が改善され、納税者全員が税法を遵守しているという信頼が高まる。
納税者番号制度は、個人所得税の課税方式との関係でも重要となる。源泉分離課税されている利子所得等について、個人所得税の本来の課税方法である総合課税するには、膨大な数の預金口座からの利子所得や、各種金融商品にかかわる所得についての資料情報の提出が求められる。現在は、給与所得者の多くが年末調整で納税を完結するが、総合課税化に伴いほとんどの納税者が確定申告書を提出することになる。
税務行政以外の行政分野においても、国民の利便の増進や行政の合理化に資することを目的として、基礎年金番号や住民票コード等について、全国一連の番号の整備が進んでいるが、これらの番号をそのまま納税者番号として使用するのは困難であるとされる。
納税者番号制度は膨大な制度であるため、その導入時には民間と行政の双方においてかなりの規模のコストが生ずる。また、プライバシーの保護の問題も生ずると考えられており、税務職員への守秘義務、税務データへの他の行政当局からの不正アクセスの問題などが検討されねばならない。
なお、アメリカでは1962年から社会保障番号を、カナダでは67年から社会保険番号を、またスウェーデンでは68年から統一コードを、納税者番号として使用している。
[林 正寿]