純粋の鉄のことであるが、その純度はさまざまである。工業用純鉄として日本工業規格(JIS(ジス))1種に規定されているものには次の不純物が含まれている。炭素0.03%以下、ケイ素0.03%以下、マンガン0.01%以下、リン0.02%以下、硫黄(いおう)0.02%以下、銅0.07%以下、アルミニウム0.15%以下。この種の純鉄は、硫酸鉄の電気分解によって得られる電解鉄を原料として真空溶解されたものが多い。純鉄の原料としては、五カルボニル鉄Fe(CO)5を150℃付近に加熱分解して得られる、いわゆるカーボニル鉄も用いられる。古くは純度のよい銑鉄から得られたアームコ(社名)鉄が純鉄の代表として用いられていた。化学処理によって特別に精製された純鉄として市販されているものに、ピューロン(アメリカWestinghause社製)、ジョンソン・マッセイ純鉄(イギリスJohnson Matthey社製)、エヌ・ピー・エル純鉄(イギリスNational Physical Laboratory社製)、フェロバックE(アメリカVacuum Metal社製)などがあるが、これらも総量0.01%近い不純物を含む。最近では入念な化学処理や水素雰囲気中での帯溶融精製を繰り返すことにより純度をどこまであげうるかという試みが種々行われている。鉄の不純物としてもっとも普通のものは炭素である。0.0001%(1ppm)の炭素や窒素によっても鉄の機械的性質は著しく変わる。通常の高純度鉄は極低温できわめてもろいが、徹底的に純化された鉄はよく延びる。
常温の鉄はα(アルファ)鉄とよばれ体心立方構造であるが、約910℃で面心立方構造のγ(ガンマ)鉄に同素変態し、さらに1400℃付近でふたたび体心立方構造のδ(デルタ)鉄に変わる。
[須藤 一]
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