紫根染め(読み)しこんぞめ

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

紫根染め
しこんぞめ

染色の技法。紫根ムラサキの根で、古来、南部(なんぶ)(岩手県)産のものを最上とし、讃岐(さぬき)(香川県)、伊予(いよ)(愛媛県)産がこれに次ぎ、大和(やまと)(奈良県)、近江(おうみ)(滋賀県)、河内(かわち)(大阪府)産をそれに次ぐものとしていた。商品としては野生種を山根、栽培種を里根とよび、染料としては山根が里根の上位にあった。
 染め方は次のとおりである。紫根を染めるものの約半分量砕きつぶし、これを袋に入れて微温湯の中でよくもみ出す。この液を紫液という。このとき湯が熱すぎると色が黒ずむおそれがある。もみ出した残滓(ざんし)は、二度、三度同様にもみ出して用いる。これら二番以下のものをから液という。染めるものを、ハイノキ科のサワフタギ(ニシゴリ)またはツバキ科のヒサカキ、またはツバキの灰汁(あく)などに浸し、絞ってから液につけ、十分色を吸収させて1日干して乾かす。これをふたたび灰汁に入れて紫液またはから液で染め、同様に乾燥する。これを約10回繰り返すと藤(ふじ)色になり、20回くらいで紫に染まる。このような、灰汁を先に、紫液を後にした染法のほかに、逆に、紫液に浸し、次に灰汁につけることを繰り返して染めることもできる。また、別の方法として、最初に呉(ご)(豆汁)の下づけを行い、次にサワフタギまたはヒサカキかツバキの灰汁に浸して乾燥し、さらにまた浸して乾燥することを数十回繰り返し、これを長期間(6~10か月)枯らしたのち、紫根のもみ出し温液に浸し、よく染料を吸収させて染め上げる。
 以上はいずれも近代の染法であるが、上代の染色には、灰汁以外に酢が使用され、その加減によって色相に変化ができ、京紫ともなり、江戸紫ともなる。灰汁は媒染剤として不可欠のもので、古く『万葉集』(巻12)に「紫は灰指(さ)すものぞ海石榴市(つばいち)の八十(やそ)の衢(ちまた)に逢(あ)へる児(こ)や誰(たれ)」と詠(よ)んでいる。
 以上の紫根を使用した染色のほかに、紫根を使用せずに紫を染める方法があり、江戸時代に盛んに行われた。これを、紫根を用いた本紫に対して偽紫(にせむらさき)とよんだ。この方法は、三原色の配合の理を応用したもので、まず藍(あい)で浅葱(あさぎ)に下染めし、その上に蘇芳(すおう)あるいは茜(あかね)をかけ、藍の青と、蘇芳や茜の赤とで紫を出す。現在、真正の紫根染めは、文化財として残されている以外にはみられず、ほとんどが合成染料によっている。[後藤捷一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

朝日新聞掲載「キーワード」の解説

紫根染め

多年草のムラサキの根(紫根)から採った染料を使う。職人が糸で細かく絞るように縫い上げた絹や木綿の生地を、臼ですりつぶして熱湯で抽出濾過(ろか)した染料に漬けて作る。岩手では江戸時代、紫根は南部藩の特産品だった。明治以降は化学染料の影響で衰退。ムラサキは現在、絶滅危惧種に指定されている。

(2017-06-07 朝日新聞 朝刊 岩手全県・1地方)

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