改訂新版 世界大百科事典 「組織論」の意味・わかりやすい解説
組織論 (そしきろん)
organization theory
組織内の個人,集団の行動もしくは組織体全体の行動を,社会学,社会心理学,心理学,人類学,経済学等の基礎学問を援用して分析する科学。組織論は,研究者の主たる関心が個人の動機づけにあるか組織体の構造にあるかによって大きく二つに分けられる。前者はミクロ組織論,後者はマクロ組織論と呼ばれる。
ミクロ組織論は,分析単位を個人および小集団に置き,個人の個性,態度,集団における成員の相互作用から生まれる凝集性,集団圧力,リーダーシップなどを基本的な変数として,理論モデルを構築しようとする。このためミクロ組織論は組織心理学といいかえてもよく,その基盤として産業心理学と社会心理学をもっているのである。歴史的には,ミクロ組織論は組織における心理学的研究,すなわち,20世紀初頭の適性検査,疲労の研究,作業動作研究に関連した産業心理学的研究に始まった。その後1920年代に,メーヨー,レスリスバーガーを中心としたホーソーン工場実験が行われ,組織におけるインフォーマル・グループの重要性が注目されるようになったのを契機として,人間関係論が成立し社会心理学的アプローチが台頭することになった。その後,このアプローチの中心はミシガン大学に移り,グループ・ダイナミクスとして展開された。その成果をふまえてR.リカートは,個人,集団,組織の異なるレベルにわたる一般理論を,集団を中心として構築した。また,A.H.マズローの欲求階層説を基礎として,D.マグレガー,F.ハーズバーグ,C.アージリスらが,それぞれ自己実現欲求を充足する組織の理論を展開し,リカートとあわせて新人間関係論と呼ばれる。
マクロ組織論は,M.ウェーバーの官僚制論を出発点として,おもに社会学者によって研究されてきた。マクロ組織論は,組織における成員の目標,価値,役割,情報,意思決定,権力関係の配列などに分析の焦点をあてる。このアプローチは,組織のパターン化された常態が人間の行動を規定するという仮定から成り立っている。歴史的には,ウェーバーの後に,おもにアメリカを中心としてマートン,セルズニック,グールドナー,ブラウらの社会学者が,合理的な組織形態と考えられていた官僚制の逆機能の解明を行った。このような研究が基本的には環境要因を重視しないクローズド・システムとしての組織の静態分析を行ったのに対し,T.バーンズ,G.M.ストーカー,J.ウッドワード,P.R.ローレンスとJ.W.ローシュらは,環境との交換関係にあるオープン・システムとしての組織が環境へ適応する様式を問題とし,実証研究を展開した。このような理論をコンティンジェンシー理論(条件理論)という。
以上のようなマクロとミクロのアプローチを統合し,一般理論を構築しようという試みとして,C.I.バーナードの〈協働システム〉,H.A.サイモンの〈意思決定〉などの概念を中心とした一般理論があるが,今までのところ,組織論では一般理論構築よりも,中範囲の理論を志向した研究が盛んである。
執筆者:野中 郁次郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報