江戸後期の経世家本多利明が,国を経営し富ますための秘訣となる政策を論じた書。1798年(寛政10)成る。上下2巻,補遺,後編(一名《国家豊饒策》)。彼の思想,政策が体系的に示された代表作の一つ。上下巻においては,富国策の基本として焰硝(=爆薬,国土開発の手段),諸金(金銀銅鉄鉛山の開発,重金主義的術策),船舶(海外貿易のための“長器”で官営を主張),属島(北海道・樺太を主とする科学的な自然開発)の〈四大急務〉を説く。国家の理想像を中国よりヨーロッパ諸国に移すべきことを主張,官営貿易によって,鎖国体制を超えて万国との有無相通の交易を説く。補遺では,ロシア南下の脅威をふまえ,北海道・樺太の具体的開発策を述べる。〈後編〉では,算数を基盤とし,天文・暦学の重視,紙張障子をガラスに替えるべきこと等を唱え,また淀川・阿武隈川・千曲川,猪苗代等の開発を先駆的に指摘した。《日本思想大系》所収。
執筆者:塚谷 晃弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
「国家豊饒策」とも。江戸後期の代表的経世論書。2巻・補遺・後編。本多利明著。1798年(寛政10)成立。のちに2巻のみ刊行。経世秘策とは国を経営し富国とすべき秘訣となる政策の意。ここでの国は藩ではなく日本をさす。みずから見聞した1783年(天明3)の飢饉からの鋭い危機意識を背景に,従来の儒教的な経世論とは異なり,西洋の知識に裏づけられた富国策を示した。具体策として,開発用の爆薬の製造,鉱山開発,海外貿易のための船舶の建造,蝦夷地を主とする日本近辺の諸島の開発の4大急務を詳述,小急務として河川の開発を論じる。「日本思想大系」「日本経済大典」所収。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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