日本大百科全書(ニッポニカ) 「経営理念」の意味・わかりやすい解説
経営理念
けいえいりねん
management philosophy
経営者が経営活動を通じて実現しようとして抱懐している信念、信条、理想、イデオロギーなどの価値をいう。経営信条、経営哲学などとほぼ同義とみてよい。経営理念は、経営目標management goalとともに、経営目的management objectiveを構成する。経営目的とは、経営活動の目ざす望ましい到達状態であるが、経営理念はその価値的表現であり、経営目標はその事実的表現(利潤率など)である。経営理念は多くの場合、社是、社訓、綱領、指針、社歌のような形で客観的に表現されている。経営活動への浸透をより深めるためには、このような成文化はきわめて有効である。日本の企業では、これまで創業者の経営理念をそのまま継承し、国家社会のなかに企業を位置づけ、企業の社会的機能を崇高な使命として説き、業務の遂行にあたっては協力、献身、勤勉、礼節などを呼びかけるものが非常に多かった。このような傾向は、明治以来の富国強兵、産業立国を柱にした国策という環境要因と、さらにそれ以前からあった儒教的な礼楽刑政(礼=世の秩序、楽=音楽=人心の融和、刑政=刑罰と善政)を説いた経国済民(国家を経営し、人民の難儀を救う)の道に深く影響されたものと考えられる。そこでは、儒教的仁義と集団主義がその根幹になっていた。1980年代以降、こうした伝統的理念に加え、あるいはそれらにかえて、顧客中心、企業価値最大化、創造と前進のような現代的企業観に即した理念を掲げる事例が急速に増えつつある。
[森本三男]