経営費用論(読み)けいえいひようろん(その他表記)Kostentheorie ドイツ語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「経営費用論」の意味・わかりやすい解説

経営費用論
けいえいひようろん
Kostentheorie ドイツ語

企業の経営活動における費用の態様とその法則を研究する理論。技術的な原価計算を深化させ、その根底にある経営現象を費用面から考察するもので、主としてドイツで発達した。経営費用論には、(1)費用を生産量の関数として把握する狭義費用理論と、(2)費用・価格・収益を生産量の関数として把握する広義費用理論とがあり、さらに後者は、経営目標の内容を利潤とするか経営成果とするか、また、経営目標の水準を極大化原理とするか満足化原理とするかによって、4種に分けられる。しかし、現存する有力な理論は、E・シュマーレンバハからK・メレロビッツに至る伝統的費用理論ないし収益法則的費用理論と、E・グーテンベルクによる近代的費用理論ないし適応的費用理論の両者である。

 収益法則的費用理論は広義費用理論の一種で、利潤極大化原理による経営目標を想定している。適応的費用理論の内容の大部分は狭義費用理論になっているが、根本的立場は収益法則的費用理論と同じである。両者の相違は、その名称が示すように、費用現象のとらえ方にある。まず収益法則的費用理論では、固定費変動費に大別される総費用は、生産量ないし操業度の上昇につれ、収益法則(収穫逓減(ていげん)法則に同じ)に従い、逓減比例逓増のS字状経過をとって増加する。これから、平均費、限界費、平均変動費などが導き出され、平均変動費が最小となる最低操業度、平均費の最小となる最適操業度、限界費と価格(限界収益)が一致する最有利操業度が決定される。最低操業度は価格下限を、最適操業度は単位利潤の最大になる生産量を、最有利操業度は利潤総額が最大になる生産量を示し、それぞれ政策の基礎を提供する。これらは、規模一定とした短期理論であるが、これを拡大して、規模の費用現象を扱う長期理論が展開される。

 適応的費用理論は、収益法則的費用理論が根拠とする収益法則は農業に関する法則であり、工業に妥当しないと批判する。工業生産では、農業生産のように原材料や労働の要素投入量を自由に変更させることはできず、特定製品の生産に関する要素投入量の組合せは、技術的に決定されている。したがって、総費用は、収益法則的費用理論と同様、固定費と変動費に大別されるが、変動費の内容は、一定比率で生産量に関係して増減する比例費とみなされる。このような考え方からすれば、環境変化による生産量増減は、次の三つの適応によって可能となる。すなわち、(1)生産時間を同一としたまま機械・設備の全部を稼動させ、その利用度を変える強度による適応、(2)機械・設備を一定に保ちつつ、労働時間増減、交替制の増減などにより生産時間を増減させる時間的適応、(3)機械・設備の一部または全部を増減(休止、廃止、増設)する量的適応、である。1950年代に両理論の間に激烈な論争が展開されたが、適応的費用理論が大勢を制したとされている。

[森本三男]

『森本三男著『経営学の原理』(1986・中央経済社)』

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